暇人茶目娘と惰天機ボーイ
雨野瀧
気まぐれ編
どーせ暇なんでしょ?
23:36
ドゥルドゥルドゥルルン?
ドゥルドゥルドゥルルン?
バイブと共に陽気な木琴の音が耳に響く。
まだ深夜とも言えないこの時間、俺はベッドの上であぐらをかいて、ヘッドフォンでロックミュージックを聴きながら爪を切っていた。自分の部屋とはいえ、外界を封鎖して聞こえてくる音が感覚器に心地よい。
そこに入ってきた邪魔な雑音は、睡眠を促すお節介な通知でも、Twitterのリプ通知でもなく、LINEの通話着信音。
こんな時間に電話をかけてくる人など思い当たらない。だが拒否するにしても、スマホを手繰り寄せなければいけない。
暴れるように振動し続けるそれには、その子のフルネームがひらがなで映っていた。
なんでだよ。
予告もない突然の通話に、出る理由はないが出ない理由もない。緑の方をタップしてヘッドフォンを外し、スマホを耳に構えた。古典的ながらも、通話はこうでないと落ち着かない。
「んふふふふっ」
第一声は甲高い笑い声。奇妙でも嫌味っぽくもない真っ白な笑い声にどう応えれば良いものか。
「出てくれたぁー、ちょっと意外!なんか暇だし寂しいしさー、かけちゃった!ねぇ、今日何してたー?ツイートもほとんどなかったよね?」
「ん、化学とか古典とかやってた」
「あー、そーなんだ、え、今も?」
「まぁ」
嘘をついた。
彼女から電話が来るのは初めてだった。それなのに、まるでいつもしてるみたいに。
「暇なんだけど、このまま繋げててもいー?」
「別にいいよー」
「わーい、じゃあ私は邪魔しないように静かにするから気にしないで勉強してていいよ」
「んー」
これなら素直にだらだらしてたと言えばよかった。まぁそう言えばお喋りしようよと言われるのだろうからこれで良かったのかもしれない。彼女の方は静かにすると言った通り、本当に黙ったようだ。
仕方なく音楽を聴くのは辞めて、代わりに手を伸ばしたところにある本棚からラノベを漁った。
数ページも捲らないうちに、また軽やかな笑い声がする。
「んふふっふはっ!ねぇ気づかないの?これビデオ通話なんだよ?勉強してないのも見えてるんだからぁ!」
ぎょっとしてスマホを見ると、確かに彼女は映っている。リラックスした清潔な顔に濡れた髪。風呂上がり1時間後って様子だ。心なしか胸元も緩い感じ。
ということはだ。この俺の部屋着姿も気怠い動きも全部見られていた可能性がよぎる。ため息がでる。
「どーせ暇なんでしょ?これはね、イタズラ電話だよ!付き合ってくれてありがとね!またかけるから!」
と言い残して、一方的に通信は切られた。「どーせ暇なんでしょ?」は図星だし、女の子と通話なんてのも悪くなかったなと思ってラノベの続きを読み出した。
15分後、また着信音が鳴る。この子、そうとう暇らしい。
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