占い師の忠告

@nakamichiko

第1話  個室


「Uターンはしないように気を付けて」


 タロットカードなのかわからないものを見ながら、ビルのまるで掃除用具入れのような一室で、俺と俺をここに連れてきた年配の有力者に、占い師は語った。


「そうですか、ありがとうございます、先生」


と言って彼はちらりと俺を見た。その後俺は背広の内側に入れてある封筒、その中の金額がもったいないような気がしながらも、彼女に料金を渡した。


「くれぐれも気を付けて」

「ありがとうございます」


俺の占いなのに、彼の方が恭しく頭を下げた。いつもはどちらかと言うと「社交辞令的」な行動の人だが、今見る態度は素の、まるで本当に美味しいものを食べた時のような感じだった。


俺の車に二人で乗りこみ

「彼女の占いは本当によく当たるからね、気を付けて」

「でも、Uターンと言っても、私はほぼ地元で仕事をしているし」

「車のことかもしれないよ、君もそろそろ運転手を持った方が良い、社会的にもその方が信頼される。だがその運転手も決して君の若い頃の友達に頼んではいけないよ、逆に信頼を失いかねないからね」


 それは納得のいくことだった。

俺も自分の事を話すとき「私」と言うようになってどれぐらいたっただろうか。昔は決して良い子ではなかった俺が、会社を興し、もう十年になる。

「商才がある」と言うより人を見る目があるのかもしれない。「法律ギリギリが一番儲かる」と言う会計士に出会え、また「人に美味しいものを食べさせること」の重要性も早くに痛感できた。

昔は「ギブ アンド テイク」と言ったが、それは一方からの事で、結果的には今風の「ウイン ウイン」にならなければ、最終的にはいけない。だから本当は占いなど全く興味のない俺が、付き合いで大枚を払った。そしてその後は彼のおごりで個室で食事となった。占い師に払った金の一部は、きっと彼に戻ってくることも知りながら。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る