私は何度も折り返す
川で日向ぼっこ
追う日々
喧騒の日々に疲れていた。
彼女は幼い頃から何かを描くのが好きでそれは単なる趣味だった。
年齢を重ねる度に夢を問われ、喧騒に飲まれる中ふと夢を見出す。
心療内科医になりたい。と
それを口に出せばお金がないと一蹴され、
彼女の1度目の夢は淡く破れた。
自分には何が残るのかと自問自答した結果は
絵を描く事しか無かった。
高校から毎日アルバイトに身を費やし必至にお金を貯めた。
貰った額は決して言わず、家に毎月5万円の生活費を入れ、食事は自分で賄った。
家には食事を作る人が居ない。
作ったとしても、全ていつの間にか無くなるのが当たり前でお弁当を持つこともままならないかった。
2度目の夢は、現実味がないと否定された。
それでも口を効かないのは最後の抵抗だった。
1年程続けた時、母が遂に折れた。
大学よりは安いからと必至に貯めたお金を費やしてもぎ取った奨学金に歓喜し私は忠告も聞かず専門学校に飛び込んだ。
初めての一人暮らしに浮かれ、連絡等は殆どしなかった。
自分だけで生活費を稼ごうと再びバイトに身を費やし合間に絵を描く生活が続く。
しかし彼女は学校で本当の努力家、天才を目の当たりにしてしまい、半年間は平行線のまま無駄に過ごした。
1年の後半ともなれば何かが吹っ切れたかの様に評価をえて徐々にヒートアップし、編集の担当者を得る事も出来た。
卒業後は同じ夢を持つ友人と都会に出てルームシェアをし、相変わらず親にも連絡をしなかった。
夢に近づくためにアシスタント業もした。
しかしそこから何かが崩れて行った。
引っ越して束の間でアシスタントの他に、バイトもし始めた。
日々追われて行く中金銭的に頼りなくなったのだ。
友人は一向にアシスタントのみで大まかに彼女が払うしかない生活が続く。
すり減って行く時間、生まれる差。
徐々にペンを持つ回数が減った。
気付けば、描けなくなっていた。
友人と話し合おうにも一方通行のままただ日々は過ぎ、彼女は我慢の限界だった。
私は何をしているんだと自問自答し、
何日も考え抜い末、随分と懐かしい画面を開いた。
「帰っておいで。」
その言葉に泣きながら携帯を握りしめ何度も頷いた。
すぐ様荷物を纏めると、
友人は慌てて居たが彼女は今更聞かなかった。
数年ぶりの故郷に足が重く、寒さに息を吐く。
私は、帰ってきたのだ。
ゆっくりとした足取りで懐かしい道を辿る。
見慣れた家で足を停めると重い扉を開けた。
「お帰り。」
酷く優しい声色だ。
シワが増えた顔。4年振りに帰ってきたのだ。
食卓には豪華にお寿司が並べられそれを私は涙を堪えてもくもくと食べた。
今、私は普通に就職して、
また家を出て、
普通に暮らしている。
もう一度ペンを握った事もあったが結局最後まで描けなかった。
あの時に、夢も置いてきたのだと思った。
母の反対を押し切らず聞いておけば良かったのかと考えた時もあるが、これで良かったのだ。
実家の近くに越した家に現在暮らしている私、
大きなお腹を抱えながら第3の夢を叶えようとしているのだから。
私は何度も折り返す 川で日向ぼっこ @katakawa
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