悪役令嬢はやがて覇者へと上り詰める。

桧山 御膳

プロローグ 『聖女』失格

300年に1度このエリルガルドの地に生まれ、その類稀なる美貌と聖なる癒しの舞いの力で勇者を助け、世界の均衡を救うとされる『聖女』。

その聖女が歴代生を受けるのが世界創世記から続く名門貴族のエルランド家であった。


今年は丁度先代聖女誕生から300年の年。

エルランド夫人は努力の末に1人の玉のような女の子を出産した。

新たな聖女誕生の栄誉に顔を輝かせるエルランド公爵と夫人は、女の子を<新たな時代>という意味の「リーベル」と名付けた。

聖女誕生の朗報は使者によって極秘裏に王都の大聖堂に伝わり、1週間後の夜には聖女に謁見するために大神官が何人もの高位神官を従え宮殿の門を潜り、エルランド家の大広間を訪れた。

300年に1度の歴史的な日である。

「この子が次の『聖女』のリーベルです!」

人払いをし、関係者のみがひっそりと佇む大広間で一際目を引く麗しきエルランド夫人は煌びやかなドレスに身を包み、さも自分が聖女と言わんばかりに誇らしげである。

その夫人の手から、すやすやと眠るリーベルを大神官が恭しく抱き上げその顔を覗く。

こうして歴代の聖女達は大神官によってその素質を鑑定されるのである。

だが、この年は

「この子は…」

と赤子を抱く大神官が言葉を詰まらせた。

その曇った表情に、室内に緊張が走る。

「…ふむ…この子は、脚が悪い。普通に生活出来ても、舞うことは……それに…いや、まさか…魔力はすこぶる高いが…」

大神官のキレの悪い言葉にエルランド夫人が不安げに視線を泳がせ、夫人の傍にいたエルランド公爵が顔色をうかがう様に声を絞り出す。

「そ、それはどういう…」

大神官が目を伏せ、溜息と共に首を振った。

「つまり『聖女』には不適格。さらに言えば、この子には聖なる力は流れていない」


今は春。

その二言で室内の空気は再び冬に逆戻りした。

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