儚い命

 春になり姿を現すのは、植物の新芽だけではない。

 冬眠から目覚めた動物や、卵から孵った昆虫も姿を現す。

 その中で目にすることが多いものの一つは蚊だ。

 新芽は外出しなければ目にすることは無いし、冬眠から目覚めた動物は山にでも行かない限り出会うことはない。

 しかし、蚊は家の中にいたとしても、どこからともなく忍び寄ってくる。

 

「うわっ! まだ春なのに蚊がいるよ」

 

 夏に刺されることが多いので、蚊は夏の生き物というイメージがあるが、実は春頃から姿を現す。

 そして、人間の血液を狙ってくる。

 

「このっ!」

 

 多くの人間はパチンと叩いて殺すが、それができない人間もいる。

 

「蚊って卵を産むために血を吸うんだよね」

 

 蚊は子孫を残すために、命懸けで栄養豊富な人間の血を吸おうとする。

 その親の愛に心を打たれた人間は、蚊を殺すことを躊躇ってしまう。

 

「今血を吸っているのはお父さんかな?」

「今血を吸っているのはお母さんかな?」

 

 父親と母親を連想して、オスが血を吸ってもメスが血を吸っても見逃してしまう。

 しかし、忘れてはいけない。

 蚊は病気を運んでくることがある。

 それがもとで命を落とすこともある。

 殺すのが嫌なら、血を吸うのを見逃すのではなく、刺されない工夫をするべきだ。

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