第43話「俺の正体」

 にこっと笑みを深める。


「あなたが本当は男の子だってこと、気づいてないとでも思った? 私、男の子のときのあなたに会ってるのよ。あんまりバカにしないでほしいわ」


 優しげに細めた目で俺とエレナを見て、ぷっくりとした唇で言う。


「女の子になったホワイトさん、それを必死で隠そうとするスチュアートさん、呪いや『玉手箱』への関心……。これらのことから考えると、そうね、スチュアートさんの呪いでホワイトさんが女の子になってしまった、というところかしら?」


 唇を噛んでエレナと顔を見交わす。

 エレナもバツが悪そうな顔をしていた。


「その反応、どうやら図星みたいね。魔法の苦手なスチュアートさんが呪いだなんて、ちょっと信じられないけれど……」


 エレナが怒ったように顔を赤くする。


「でも今、すごい魔法を見てしまったしね。わかってると思うけど、この国では呪いも異性への変身もとても重い罪なのよ? もしもこのことがバレたら、退学どころか異端審問にかけられることになるわ。……私が言ってる意味、わかるわよね?」


 先生はきれいな笑顔を浮かべる。


「秘密を黙っていてほしかったら、私の正体は……」


 はっと言葉を切りあげる。

 先生の顔が赤いフードに隠れると同時に、階段を駆けてくる音が聞こえた。


 怪盗赤ずきんはダッと駆けだした。

 同時に階下から現れた黒スーツと警備員たちが「いたぞ!」と指をさす。


「大丈夫か君たち!?」


 警備員のひとりが俺たちに駆け寄った。平気ですと早口に答え、俺とエレナも黒スーツに続き赤ずきんを追って屋上へと走った。


 赤ずきんはフェンスの向こう側にいた。

 俺たちを振り返った口元がニヤリと笑う。


「待てっ!」


 赤いブーツがためらいもなく屋上の縁を離れた。


 月夜にはためく赤いローブは校舎の下へと消えていった。


『玉手箱』を小脇に抱えたまま。


 慌ててフェンスに駆け寄る。

 網に両手をしがみついて覗き見た地上約二十五メルテルに、


「消えた……」


 赤ずきんの姿はどこにもなかった。

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