第42話「怪盗の正体」

 赤ずきんはぴたりと動きを止める。


「へ?」


 エレナが間抜けな顔で赤ずきんを見あげた。


「……うふ」


 国宝『玉手箱』を抱えた怪盗赤ずきんは、ゆっくりとフードをはずした。


「バレちゃった」


 緩く三つ編みしたオレンジ色の髪が現れる。

 優しげなたれ目がいたずらっぽく細まった。


 それは間違いなく、我らが担任のイオリ・モーガン先生だった。


「なっ……!」


 エレナ絶句。俺もそんな気分だよ。


 イオリ先生は優しい笑顔を浮かべた。


「よくわかりましたね、ホワイトさん。今日はキャンディを置いてくるべきでした」


「……まさか、巷を騒がす大泥棒の正体が学校の先生だとはな」


「私も、まさか生徒に見抜かれるとは思わなかったわ」


 とか言いながら、先生は余裕たっぷりに笑う。


「学校内部の人間じゃなきゃ、今日ここに『玉手箱』があることなんて知らないからな。しかもそれを知っているのは限られた人間だけだ。それに警備人形ガーディアンが反応しないのもおかしいと思ったんだ。でも赤ずきんがヒナギクの関係者なら説明がつく。教員証があれば警備人形ガーディアンは襲ってこないからな」


「そうですね」


 先生は胸元から護符状の教員証を取り出してウインク。


「もっと早く気づくべきだったよ。あんた、前に俺たちに呪いの本の情報を流してエンプティ6にけしかけたことがあっただろ。あれは俺たちにエンプティから『メルヘンズ』を持ち出させ、そのあと獲物を盗み出すつもりだったんだな」


「正解です。手に入れたのがあなたたちだったら、ちょっと借りるだけで済んだんだけどね」


 悪びれもせずに先生は微笑む。


「だって、もう一度取りにいくのが面倒だったの。エンプティって危ないんだもの。ネットに『メルヘンズ』の情報を流したのも私よ。私がジャンクに追われて取り逃してしまった獲物あれを誰かが持ち出してくれないかと思ってね。そうしたら、あとはその人の家に盗みに入ればいいんだもの」


「盗めばいい、か。教師とは思えない発言だな。学校の先生なんか続けてるのは、泥棒の隠れ蓑にするためか?」


「さあ。それはどうかしら」


 先生はにこにこと笑っている。なに考えてるのかわかんない人だぜ。


「……今までにもヒントはあったんだ。なんかおかしいと思ったんだよな。さっきも、国宝の警護監督なんて重要な任務についてるのに、どうも警備が甘い気がして」


「ホワイトさん、意外に頭が回るのね。授業でもその能力を発揮してほしいわ」


 余計なお世話だ。


「な、なんで先生が泥棒なんか……」


 エレナが言う。イオリ先生はおっとりとした笑顔で、


「先生にもいろいろ事情があるのよ。お金持ちのスチュアートさんにはわからないかもしれなけれど」


「でも、だからって泥棒なんて……」


 エレナは眉をつりあげ、毅然とイオリ先生を見あげた。


「先生、『玉手箱』を渡してください。さもないとあなたの正体を警察にバラしますよ」


 イオリ先生は穏やかな笑みを崩さない。


「そんなこと言っていいのかしら? スチュアートさん。それとも……」


 先生は俺に顔を向けた。


「あなたに言ったほうがいいかしら? マカゼ・ホワイトくん」


「!!」

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