第38話「マカゼの真実」

「そうだ。エレナの親父の学生時代からの友人で、五年前まで現社長の右腕としてスチュアート社で働いていた男。そいつにはエレナと同い年の息子がいた。それがエレナの幼馴染だ」


 壁をえぐる刺突攻撃は止まらない。


「エレナと幼馴染はとても仲が良かった。幼いながらに結婚の約束をするくらいにな。……でもその約束を果たすどころか、二人は会うことすらできなくなってしまった。五年前の異端婚約事件のせいで」


 異端婚約事件。五年前に起こった、アン教徒アニストと婚約したエレナ教徒エレニストの女性が家の反対を受け駆け落ちし、国外に逃亡した事件。


 トバリはなにも言わない。続きを待っているようだった。


アン教徒アニストと駆け落ちしたエサーナスの女は、エレナの幼馴染の姉だったんだ」


 トバリの攻撃が一瞬弱まる。


エレナ教エレニスト国エサーナスでは大事件だったのに、駆け落ちした女の情報は一切報道されなかっただろ? あれはエレナの親父が、自分の右腕である男の娘だったことを必死でもみ消した結果だよ。

 あの事件をきっかけに、エレナの親父は男を解雇した。学生時代からの友情も家族間の関係もすべて断絶だ。男の一家は周りの人間から異教徒と差別され、素性を隠しポピュラーとしてひっそりと生活するようになった。

 異教徒のレッテルを貼られた幼馴染の少年は、エレナと二度と会えないことを覚悟して、なにも言わずにエレナの前から姿を消した。

 エレナは言ってたよ。あのときなんで父親を止められなかったんだろうって。なんで大事な友達を助けられなかったんだろうって。あいつは五年間ずっとそうやって後悔しながら生きてきたんだ。……そんなあいつのさみしさも、優しさも、後悔も、なんにも知らねぇおまえなんかに、大事な幼馴染はやれねぇんだよ!」


 パン、と小さな紙面を叩く。


「"エッチ・スケッチ・ワンタッチ"!!」


 描かれた美少女の線が輝き、キュインと伸びて鉄壁の守りヴァージン・ブロックの外へ降り立つ。


「……って、その幼馴染が言ってたよ!」


 全裸の巨乳エレナ、絶妙に大事なところが見えない少年漫画仕様が部屋の反対側へと駆け出す。


「なっ! 創作魔法……!?」


「なんのためにこんなこと話したと思った!?」


 予備動作プレパレーションの時間を稼ぐためだよ!


 トバリの刺突攻撃が乳エレナに向かって伸びる。


「”地獄竜の獄炎ドラゴン・ブラスト”!」


 円錐に火柱をぶつける。

 円錐は激しい炎に焼かれ、乳エレナに届く前に崩壊した。


「あんたの相手はこっちだよ!」


「くそっ……!」


 鉄壁の守りヴァージン・ブロックを引っこめる。俺は胸ポケットをつかんで言った。


「私はエレナの味方だ! エレナが嫌だと言う限り、絶対に校章これは渡さない! おまえには、絶対、負けない!!」


 突然、頭の中にイメージが浮かんだ。


 膝を抱えてうつむいたエレナ。

 そして黒レース。


「もう二度と、あいつを悲しませるような真似はしない!!」


 心のままに叫ぶ。


「"パンティ・フラッシュ・ブラックサンダー"!!」


 カッ! とあたりが黒く光った。

 漆黒の雷がトバリめがけて落ちる。


「ぐあああああっ!!」


 バチバチと音を立ててトバリを襲った落雷はすぐに消えた。バタリ、と傷だらけのトバリが前のめりに倒れる。


 ぱちくり、と俺は瞬く。


「あ、新しい魔法……?」


 できちゃった……? この土壇場で?

 やるじゃん俺。


 俺のスカートからはらりと桃色のパンツが舞い落ちた。よく見ると腰のゴム部分がすっぱりと切れている。


「もしかして新魔法の予備動作プレパって、ノーパンになること……なのか?」


 痴女じゃん……。股がスースーする……。

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