第5話「いざ職員室へ」

「……ちゃんと女の子に擬態してよね」


「へいへい」


 エレナに続いて職員室に足を踏みいれる。

 女の子のふりなんてうまくできるかなぁ……。


 広い職員室はガランとしていた。

 唯一在室していたきれいな女の人が俺たちに気づいて、こちらにやってくる。


 長いオレンジ色の髪を緩く三つ編みにしたその人には見覚えがあった。俺の魔法入試の監督をしていた先生だ。


 年齢不詳のきれいな女の先生は一口サイズの棒つきキャンディを口から出して「どなたかしら?」と尋ねた。


「見ない顔ね。あなたたち、新入生?」


「はい。あたしはエレナ・スチュアート。こっちが」


「マカゼ・ホワイトです」


 ちょっと緊張しながら俺は笑みを浮かべる。


「マカゼ・ホワイト?」


 先生は優しげなたれ目を見開いた。


「彼のことはよく覚えてるわ。私が試験監督をした受験生よね。でも彼は……」


「男の子だったんですよね?」


 エレナが言って、ええと先生がうなずく。

 やっぱり! とエレナは両手で頬を覆った。


「ああ、かわいそうなマカゼ……! やっぱり男の子だと思われてしまったのね!」


「男の子だと思われてしまった? どういうことなの? スチュアートさん」


 先生がキャンディをくわえておっとりと首を傾げる。

 エレナは胸の前で祈るように手のひらを組みあわせ、悲しげにまぶたを閉じた。


「マカゼには変わった趣味があるのです。そう、男装という趣味が……!」


 え? なに言ってんのこいつ?


「つい魔が差して、マカゼは入試の日も男装で臨んでしまったのです!」


「うわっ」


 エレナは俺の肩をつかんで、ぐいんと俺を先生の前に押し出した。


「本当はこんなにもかわいらしい女の子なのに……!」


 あれ? なにこのめちゃくちゃな嘘?

 こんなテキトーな嘘に引っかかる人なんているの? いないよね?


「まあ、そうだったの」


 いた。


 先生はぱちくりとオレンジ色の瞳を瞬いた。

 こんな嘘に騙されるなんて大丈夫かよこの先生。


「そう、そうなんです!」


 エレナが悲壮感に満ちた表情で訴える。


「送られてきた制服は男子のものだって言うし、与えられた部屋も男子寮だし、おかしいと思ったんです!」


「まあ、それはごめんなさいね。私ったら完全に元気な男の子だと思ってたわ」


 先生はキャンディをくわえて自分のデスクへと歩いた。俺とエレナもそのあとに続く。


 先生のデスクには「イオリ・モーガン」と書かれたネームプレートと大量の棒つきキャンディが置かれていた。


「本当に男の子みたいねぇ」


 パソコンの画面に俺の入学データを表示させて、イオリ先生は男の俺の写真と目の前の俺の顔を見比べる。


 そりゃ男の子ですからね!


「そういう趣味があるってわかってたら、ウチも合格を出さなかったんだけどね」


 ……え。

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