Light The Heart

ハイドレン・ラー

第0話 とある土曜日のガレージにて



10月のとある土曜日の朝

僕_吉田 俊也(よしだ しゅんや)は愛車のスイフトに乗って某自動車大学校にやってきた。

別に授業があるわけでもイベントがあるわけでも無い。

部活…自動車部の部員としてやってきた ただそれだけである。



この自動車部はジムカーナや草レースに専念するためにドリフトをしたい有志の集いはドリフト部として独立されたが、その結果自動車部の部員数が極端に減り、僕と同じ1年生がもう一人と先輩が各学年で一人ずつしかいないため、なんとか存続できてる…という状況だ。



でも決してつまんない訳ではなく、むしろ整備の実践やドラテク向上に努めることができるから最高。

ここまで楽しい部活はロボコンをしていた中学時代以来だ。


駐車場にクルマを停め、ハッチを開けて野菜ジュースを取り出す。

「お、重い…」

それもそのはず。2Lペットボトルが12本も入ったダンボール箱の状態だから。

秋も深まり、肌寒く感じる季節になったが…これをガレージまで運ぶとなると体育会系じゃない僕にはかなりの重労働で、体が熱く感じるくらいだ。

体力の無さを実感するとは…情けない…


部専用のガレージのシャッターを開けると、そこには赤いロードスターと黄色いミニクーパーがある。

ロードスターがジムカーナ担当、ミニがレース担当といった感じだ。

そしてそのクルマ達の横にある寝袋は…やっぱり…


「タニさん、朝ですよ。徹夜してたんですか?」

「ふぁぁ…吉田か。フロントサスのブッシュ交換してた。」


この大学生らしからぬ貫禄がある人は谷 文明(たに ふみあき)先輩

3年生の先輩で、主にクルマの面倒を見ている。

野菜ジュースをあげると素人とは思えない超技術でクルマを仕上げる、チート級の能力を持ったメカニックだ。

ある時はDIYでエンジンのバランス取りをして、またある時は一人だけでボディのスポット増しまでする。

僕達部員はそんな彼に敬意と親しみを込めてタニさんと呼んでいる。


「野菜ジュース買ったんで冷蔵庫に入れますね。」

「ども。西条先輩と女子組はまだか…朝飯食わねぇと。」

そう言ってタニさんが七輪を取り出して火をつけた。

彼の朝食は8枚切り食パン1枚と野菜ジュースをコップ1杯。

心配になりそうな量だが、これが普通だそうだ。(昼と夜はちゃんと食べてるらしい)



「お、やってるな。」

さわやかイケメン、の言葉が似合う4年の西条 蛍(さいじょう けい)先輩はロードスターのドライバー。クルマを壊さない運転をモットーとしていて、そのおかげでトラブルは今のところ無い。

なのに、モテないのが残念で仕方ない僕達の憧れの先輩だ。

「おはようございます。調子良さそうね。」

「おはようございます!今日もよろしくお願いします!」

女子は背の高いモデルのような2年の永井 理子(ながい りこ)先輩と小柄な同級生の有明 広美(ありあけ ひろみ)の2人。

永井先輩はこの部の経理を主としていて、最強のマネジメントによって今年の予算をオーバーせずに済んだ。もちろん、整備の手伝いをするときもあり、丁寧である。


広美はミニのドライバー兼メカニック。

元気で明るい女の子、という印象で、この部の仲を保ってくれる素晴らしいムードメーカーだ。


ワイワイ話しながらクルマをいじる…そんな日常だ。

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