優太の夏の思い出Uターン
明石竜
第1話
《それではお伝えします。今日も近畿地方は太平洋高気圧に広く覆われ、
たいへん厳しい暑さになるでしょう。各地のお天気です。……京都府南部
は晴れ時々曇り、降水確率は午前0%、午後10%。予想最高気温は
38℃まで上がる見込みです》
朝の天気予報でうんざりすることを聞かされた。さすがは盆地特有の気
候だな。
みなさん、はじめまして。俺の名前は石垣優太。青春真っ盛りな14歳、中
学三年生。東京都渋谷区生まれの渋谷区育ち 。超都会っ子だ。
俺は今、夏休みを利用して京都にある祖父ちゃん祖母ちゃんちに遊びに来て
いる。
俺にはある目的があって、毎年この時期が来るのをとても楽しみにしてい
るんだ。
それは、”ツチノコ”を発見して捕獲するという大計画。この付近では大昔
から、未確認動物(UMA)の一種として有名なツチノコを目撃したという情
報が他の地域と比べてやたら多くてな、今では町の名物になってるんだ。
俺も幼い頃から毎年毎年探しに来ているんだが、未だやつの姿を目撃し
たことはない。俺はもちろん存在を信じている。一度でいいからやつの姿を
見てみたいんだ。
朝飯に、祖母ちゃんが炭火で焼いてくれたイワナの塩焼きをたらふく食ったあ
と、俺は祖父ちゃんと一緒にやつが生息しているという例の山の中へ。
普段は超高層ビル群とアスファルトに囲まれた所に暮らしている俺にとって、
年に一度訪れるこの場所は、いろんな種類の生き物たちと出会えて大自然の恵
みや心の安らぎが感じられる最高のスポットだ。
「おこしやす。お二人さんいかがどすか? ひんやりしますえ」
今年は山道の出店でツチノコアイスキャンディーというものが売られていた。
まあごく普通のコーラ味アイスキャンディーと何ら変わりないんだが。ブーム
にあやかってというとこなのだろうか。これも商法の一つなんだよな。俺も、暑
いので買っちゃったけど。他にもツチノコ関連のグッズがいっぱい売られてあっ
た。それらは一切買わなかった。
「祖父ちゃん。俺、池の周り探して来るよ。いっつも雑木林の辺り探してただろ?
今までそこで見つかった試しないし」
「そうけ? 目撃情報は雑木林が多いんじゃがのう。ワシはここをくまなく探
すぜ」
そんなわけで、俺一人で湿り気の多い草むらへと向かった。
「んっ?」
しばらく探し回っていると、突如、俺の背後に何か妙な気配を感じた。
振り向くと俺の目の前に、やつらしきものがいらっしゃったのだ。目を凝らしてこいつの体全体を見渡してみると、全長は短くて胴回りが目立って太いことが分かった。
「こっ、この特徴、まさしくツチノコだ! 図鑑で見たとおりの姿だ! こいつはツチノコに絶対間違いねえーっ!」
俺は目にも留まらぬ速さですばやくこいつの首根っこをつかみ取り、持っていた
バケツに入れて蓋をきっちり閉めた。
そして、
「祖父ちゃん、見つかったーっ! 見つかった見つかったあああああああーっ!」
俺は自分でも不思議なくらい大興奮して、祖父ちゃんのもとへとUターンした。
「ぅおう! ほんまけ? やるな優太よ。どれどれ」
祖父ちゃんも興奮しながら蓋を開け、中を覗き込んだ。
「およよ?」
途端、なんか拍子抜けした表情になった祖父ちゃん。
「あれ?」
俺も覗き込んでみて唖然とした。
確かに、バケツの中にヘビはいた。
だが、口元には消化液で溶けかけの、もはや原型をほとんどとどめていないウ
シガエルの姿が――。
俺が目撃したこいつの正体は、“アオダイショウの子供が獲物を飲み込んだ直
後の姿”だったのだ。
おそらく俺が振り回したせいで吐き出したのであろう。このヘビも既にご臨終。チーン。
「あ~あ、残念。とんだ勘違いだ。アオダイショウさん、ウシガエルさん、ごめんな」
「まあ気にするな優太よ、こういうことはよくあることなのじゃ」
祖父ちゃんは苦笑いをしながら俺を慰めてくれた。
そのあとどうしたかって? 天に召された二匹とも、ちゃんと土に埋めてアイス棒で
墓標立てて、きちんと供養してあげたよ。
祖母ちゃんは形さえ整っていればウシガエルを調理して、から揚げにしたかったらしい。
残念な結果だったけど、俺は一応満足して東京へとUターンした。
来年こそ本物を見つけるぞ。っとその前に高校受験も頑張らなきゃ。
優太の夏の思い出Uターン 明石竜 @Akashiryu
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