第14話
2月14日。
バレンタインデイ。
年頃の女性は皆、鞄の中にチョコを忍ばせる日。
大好きな人。
お世話になった人。
それぞれの想いを胸に、チョコと共に感謝を伝える日。
「はぁ……」
そして私は鬱である。
◇
梨里との打ち合わせどおり、私は白の洋服を選んだ。
梨里は白のニットワンピ。
きっと物凄く似合っているのだろう。
私は少しだけ大人っぽい服装を選択する。
「はぁ……」
さっきから物凄く胃がキリキリする。
恐らくは会って話して遊ぶだけならば、そつなく こなせる自信はある。
しかし、私は梨里に恋をしてしまっているのだ。
好きになってしまった人の前での私の『奇行』。
そう。
もはや『奇行』と言っても過言ではない。
「我慢……するのよ……友里……」
さっきから頭がボーっとしている。
脳内ではずっと想像上の梨里がお花畑でスキップしている。
嗚呼……梨里ちゃん……。
可愛いよぅ……///
…………はっ!
涎を拭き、頬を思いっきり叩く。
気合入れろ、私!
ぜーーーーーったいに! 絶対に!
いきなり『好きです!』とか言わないようにしろ よ私!
いや『いきなり』とかそういう問題じゃないんだ よ私!
女の子が女の子に『好きだ!』って言ったら駄目でしょう私!
あたま大丈夫ですか私!
「…………よし」
そう気合を入れた私の顔が鏡に映っている。
……うん。
どうしようも無く気持ち悪い……。
はぁ……。
◇
待ち合わせ場所に到着する。
……予定の一時間も前に。
「流石にまだ……来てる訳無いよね」
さっきから心臓がチャイナシンバルを思いっきり叩いている様な音が鳴っている。
ホント破裂するんじゃないかしら。
「あれ? 友里? なんでお前こんな所に……」
「……」
私は目を疑った。
え?
なんで?
どして?
「あ……ああ……」
「……何だよその化けモンでも見たかの様な顔はよ……。てか何お前? なんでそんなに気合入れてお洒落なんてしてる訳? え? 男? もしかしてデートか?」
全身を舐めるように見回す金髪の男。
鏡愁人――。
「あああああああああああああああ!」
「お、ちょ、何だよ! いてぇ! 髪引っ張ンじゃねぇよアホ! いて! 抜ける! 禿げる! やめろっつってんだろ! 痛ててててて!」
気が動転した私は愁人の金髪を思いっきり掴みながらも、待ち合わせ場所の駅前から遠ざかって行く。
なんで?
どうしてここに愁人がいるのよ……!
訳分かんない……!
「うわああああああああああああああ!」
「ちょ、落ち着け! なんの奇声だよそれ! お前あたま大丈夫か! いてえっつの! 離せ馬鹿! マジ禿げる……! いてえ! やめろマジで!」
道行く人が私達をガン見している。
というか奇声を上げている私をガン見している。
しかし私はお構いなしに、というか余裕が無いのでそのまま愁人を引っ張り――。
「ぜえっ、ぜえっ、ぜえっ……!」
「ってぇなぁ……マジで……」
そしてそのまま人気の無い裏路地へと入り込む――。
◇
「で?」
「……何がですか……?」
私の凄みを帯びたガン飛ばしにたじろぐ愁人。
いまならきっとこいつを殺せる。
それだけ私の殺意は本物だという事だ。
「……な・ん・で。ここにいるの?」
「なんでって……。飯喰いに駅前まで来たら悪いのかよ」
「悪いわよ!」
「なんでだよ! 意味わかんねぇよお前!」
唾を飛ばしながらも反論する愁人。
しかしそんな事はどうでも良い。
ここに愁人がいてはいけない。
もしかしたら梨里と会ってしまうかも知れない。
そしたら最後。
この猛獣の様な、下半身だけで動いているような馬鹿は確実に梨里をロックオンするだろう。
「……ねぇ、愁人」
「う……」
顔をぐいっと近づける私。
唇と唇が触れるのではないかという程の距離まで詰める。
「今すぐ、この世から消えて頂戴」
「……無理です。俺、まだ生きたいです」
この期に及んでまだ冗談が言えるのかこいつ。
「……なら仕方ないわね」
私はミニポーチからブツを取り出し。
そして手際よく愁人の腕を取り――。
「え」
「……これでよし」
「……なにこれ」
愁人の腕には銀色に輝く輪が。
というか手錠が。
そしてその手錠の先は裏路地にある金網へと繋がっている。
「……だから、なにこれ」
同じ質問を繰り返す愁人に笑顔で投げキッスをする私。
そしてその場をスキップで去る。
「だからなにこれえええええええええええええ!」
これで大丈夫。
愁人は身動きが取れない。
あの手錠は私が梨里と出逢って。
興奮し過ぎてしまって暴走してしまった時の保険の手錠。
勿論梨里を縛る為のものではない。
自分の両手を束縛し梨里を守るための道具(玩具の手錠だけど)なのだ。
当然それを使うほどまで暴走したら完全に梨里には引かれてしまうだろう。
私もそこまで暴走するつもりは無い。……たぶん。
要は保険だ。
「……あ、でも……」
後ろでさっきから愁人が叫んでいるが、いつもの私に戻れたお陰で少し気分がすっきりした。
ここで奴に会ってしまったのも結果オーライという訳なのだろうか。
私は愁人の叫び声をBGMに聞きながら――。
――いざ、もとの駅前オブジェの前へと出陣する。
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