第5話


「という訳なんです」

「へぇ。お世話になった人にチョコを、ね」



 翌日、私は朝から裏切り者の友人、崎守朱音さきもりあかねにバレンタインのことで相談した。

 相手のこと、友里さんのことは詳しく話さなかったけど。



「ふぅん、世話にねー」

「なによ?」

「男?」

「はぁ!? バカじゃないの! そうやって何でもそういうことに結び付けて! これだからリア充はー!」



 確かに女性だとは言わなかったけど、なんでそうなっちゃうのよ。

 今はそんなことどうでもいいのよ。私は友里さんにチョコあげたいの。朱音はそのアイデアを出してくれればいいんだってば。



「朱音は彼氏にどんなのあげるの?」

「ん? 私は甘さ控えめのチョコケーキとか作ろうかなって。彼、甘すぎるのは苦手みたいだから」

「そっか、相手の好みもあるわよね」



 そういうば、友里さんって甘いの平気なのかな。食べ物の話とかしたことないから分からないや。もし甘いのが苦手だったら、チョコあげたら迷惑になっちゃうかな。

 一応聞いてみようかな。でも、サプライズな感じで渡したいんだよね。さりげなく、そういう話をしてみようかな。

 私は朱音にひとこと言って、メールだけ打たせてもらった。SNSの方でいいかな。

 チョコのこと悟られないように、さりげなく、さりげなく。




 ◆



 アザリー さんへ


 こんにちわぁ!

 今日、友達と新商品のお菓子買いまくったんですよ。私、甘いもの大好きでww

 でも、食べ過ぎちゃうと体重計が恐ろしいことに……!(汗)

 アザリーさんは、どんなもの好きですか?




 ◆




 よし。

 アザリーさんにメッセして、私はスマホをしまった。



「ねぇ、その相手ってどんな人なの?」

「え? どんなって……物凄く優しくて、私のくだらない話にも付き合ってくれて、スッゴく良い人! ああいう人が傍にいてくれたら最高なのになーっていつも思うよ」

「へー。そんなに好きなんだ、その人のこと」

「え?」



 そりゃ好きだけど。

 そう言おうと思って、何でか言葉が詰まった。

 好きですよ。だって、理想のお姉ちゃんだもん。でも、なんか違うような気がした。本当にそんな言葉で片付けちゃっていいのかな。

 なんか、今しっくりこなかった。違和感あった。

 なんでだろう。



「梨里? どうしたの、急に黙って」

「え、あ……なんか、変な感じがして」

「は?」

「えっと。その人のこと、凄く大事な人だと思ってて、そういった意味で好き……なんだと思うんだけど、なんか違和感というか……」

「だから、好きなんじゃないの? 恋愛対象として」

「まさか! そ、そんな訳、ないよ……?」

「疑問形じゃない」

「だって……本当にそんなんじゃないし」

「気付いたら、ってこともあるでしょう? 梨里、毎日その人のこと考えてる?」



 うん、考えてる。毎日毎日考えてる。

 私はコクンと頷いた。



「一日でも会えなかったり連絡が取れなかったら不安にならない?」

「なる」



 毎日メールやSNSサイトで返事がないか確認してるもん。



「喜んでくれたりすると嬉しくなる?」

「なるなる」



 顔が見える訳じゃないけど、友里さんが楽しそうなメールをくれると嬉しくなるもの。



「ほら、やっぱり好きなんだよ。恋愛として」

「……」



 そんなバカな。

 だって、友里さんは女性だし、会ったこともないのに。

 そんな、ことって。



「……好き、なのかな」



 私、友里さんのこと本気で、ガチな意味で好きなのかな?



「と、とりあえず……なんか新商品のお菓子買いにいかない?」

「なんで?」




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