第2話

◆◇◆



 2月1日

 リリー ちゃんへ

 こんにちは!

 え? 私?

 私にチョコをあげる人なんているわけ無いでしょうが!

 私、義理チョコとかもちょっと苦手だから全然用意とかしていないのですよ!

 男運かぁ……。

 私も全然無いなぁ……。

 ていうかリア充爆ぜろって感じですよまったく!

 ぷんぷん!



◇◆◇



「……送信っと」


 SNSサイトで知り合ったリリーにメッセージを返信する。

 立花梨里たちばなりり

 ふとネットサーフィンをしている最中に出会った活発な感じのする女子高生。

 彼女のネット上での活発な活動に感化され、私も初のネットデビューを飾ってしまった。


「あ、いけない。もう3限が始まっちゃう……!」


 急いでノートパソコンを鞄に仕舞い2号館までダッシュで向かう。

 まだまだ2月になったばかりで外は肌寒い。

 私はパーカーのフードを被りながらも風を切り走る。


 私の名は浅見友里あざみゆり

 通称『アザリー』。

 リアルでも始めたばかりのネットでも、私は友人からそう呼ばれている。


「……へくちっ!」


 あまりにも寒くてクシャミが出る。

 ああ……さっさと教室に入って暖まりたい……。







「よお、赤パーカー」


 教室に入るや否や、金髪野郎に声を掛けられテンションが下がる私。


「軽々しく声を掛けないでよ、愁人しゅうと


 鏡愁人かがみしゅうと

 同じサークル、同じ学部の男子学生。 そして私が最も苦手とする……そう。

 言葉にするのもおぞましい……『イケメン』。


「なんでだよ。良いじゃん、別に挨拶くらいしたっ て。同じサークル仲間なんだし」


 そう言いながらもわざわざ隣の席に座る愁人。

 寄るなイケメン! 鳥肌が立つんだよ馬鹿!


「……あっちに行かないと……私の友達に貴方のことを紹介しまくるわよ」


「……俺が悪かった」


 素直に1つ隣の席へと移動する愁人。

 彼は知っている。

 私の友達には『変り種』が多い事を。

 ていうか腐った女子どもばかりだという事を。

 以前、愁人と他のサークルの男子学生を想像の中で凄いことをさせて皆でお酒を飲みながら盛り上がっていたという事を。


「あ……メール……」


 私の使い古したガラケーにメールの着信音が鳴る。

 まだ授業開始までは数分ある。

 私はメッセージを確認する。

 リリーからだ。


『友里さーん! 友だちに彼氏が出来ちゃったー! どうしよう、私だけ一生彼氏出来ないで一人ぼっちだったらぁー(泣)』


 いつも元気な口調でメッセージを送ってくれる彼女。 こっちの本アドにメールしてきたという事は、 よっぽどショックを受けた内容だったのだろう。

 私は興味深そうに見ている愁人を睨み付けながらも返信を入力する。


『そんなことないでしょう、梨里ちゃん。梨里ちゃ んだってすぐに彼氏くらい出来るよ。なんだったら今度私の大学の見学にでも来る? もう知り合って 何ヶ月も経つし、そろそろ私も梨里ちゃんに会いたいなって思っていたところだし。まあ、梨里ちゃんと釣り合いのとれる男なんて、うちの大学にはいないけどねw』


 入力が終わり送信ボタンを押した所で、金髪が声 を掛けて来る。


「へぇ……。梨里ちゃんかぁ……。可愛いの? その子」


「ちょ、おま、なに人の携帯勝手に覗いてるんだよ!」


「へぶ!」


 私のノドチョップが愁人を襲う。

 見られた……!

 梨里ちゃんとのメールが……よりにもよって愁人 に……!


 どうしよう……。

 愁人は絶対、しつこいくらいに『紹介しろ』と 言って来るだろう。

 駄目だ。梨里ちゃんを大学には呼べない。

 猛獣蔓延る檻の中にうさぎちゃんを放り込むよう なものだ。

 守らなきゃ。


 私が、梨里ちゃんを守らなきゃ……!




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