ユーターン!

クロバンズ

第1話

 最近、飼っているオウムが妙なことを言う。


「ユーターン!」


 ユーターン。何故かいきなりこんな言葉を話すようになった。まったくどこでこんな言葉を覚えたんだ。ユーターン……Uターンだろうか。来た道を引き返すという意味か?

 何故いきなりそんな言葉を覚えたのだろう。


「マズユーターン!」


 ん? なんか言葉が増えたぞ、マズユーターン? なんだ? どういう意味なんだ。

 目の前のオウムが発した言葉に再び俺は頭を悩ませた。

 俺の部屋はとあるアパートの一室だ。一人暮らしで、同居人はいない。

 ペットとしてオウムを飼っている。

 このオウムがこんな言葉を話し始めたのは三日ほど前。俺の仕事で帰宅が遅い日のことだった。俺は三日に一度決まった曜日に帰宅が遅い日がある。

 そんな日に、このオウムはこの言葉を覚えた。おかしいな、テレビも消して、言葉を覚える機会はないと思うんだけど……まあいいか。

 それにしても、朝から携帯が見当たらない。どこにいったのだろう。今はそっちの方が重要だった。だが、探している時間はない。

 今日もまた仕事で帰宅は遅い。きっと近所の小学生なんかが大声で叫んだのが聞こえてきたんだろう。

 そんなことを考えながら俺は支度を整え、会社へ向かった。


 *


 その夜、男が会社から帰ってきていない家の中の前に立つ一つの影があった。その人物は扉の合鍵を使い、部屋に侵入した。

 その人物はアパートの大家だった。

 彼がこの部屋に侵入するのは、初めてではない。

 男の帰宅が遅い日があることを知っていた彼は、度々部屋に忍び込み、金品を物色していたのだった。

 しかし、この前は一度だけミスを犯した。

 男の帰りが予想より早かったのだ。周りの目を考えて、犯行は夜に行なっていた。

 だからこそこの男は絶好の鴨だったのだが。

 窓の外から男が帰ってくるのを発見し、慌ててその場から、撤退したのだ。


『くそ、ひとまずUターンだ」


 そう呟いて。

 そして今日も彼は犯行に及ぶ。


「……今日は現金を頂こうか」


 男は怪しげに微笑んだ。

 慣れた手口で部屋へ侵入する。


 整理整頓のされていない部屋だ。そこらに服やゲーム機が投げ出されている。普段散らかっているからこそ、何かがなくなったことに気づきづらいのだ。

 引き出しを漁ってはバレないように元に戻す。そうしていくつかの引き出しを詮索していると、ふと、視線を感じた。


「……っ」


 振り返るとそこにいたのは一羽のオウムだった。鳥籠の中から感じたい視線の正体に、彼は胸を撫で下ろす。


「チッ、ビビらせやがって」


 彼は再び引き出しを漁ろうとする。


「ユーターン! ユーターン!」


 オウムがいきなり鳴きだした。


「やかましい鳥だなぁ。静かにしろ」


 いつまでもこの場所にいるわけにはいかない。さっさと金を盗まなければ。


 その時だった。

 不意に扉の開く音を聞いたのは。


「ッ!」


「……大家さん?」


 男が帰ってきたのだ。彼はオウムに気を取られて、男が帰宅しようとしていることに気がつかなかったのだ。


「なに、やってるんですか……?」


 対面する二人の人物。

 その様子を一羽のオウムはその丸い瞳で見物していた。


「ユーターン! ユーターン!」


 一羽のオウムの鳴き声がその場に響く。



 ——そのあと起こった殺人事件は、オウムだけが知っている。

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ユーターン! クロバンズ @Kutama

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