割れないしゃぼん玉
泣村健汰
第1話
『割れないしゃぼん玉』
突き抜ける程高い六月の空を仰ぐ。
ここ最近のじめじめもなんのその、今朝方見た週間天気予報には、今日と明日の部分に一日中晴れマークが笑っていた。梅雨の合間と旅行期間が見事に被ったのは、一体誰の日頃の行いが良かったのだろうとぼんやり考え、やっぱり父さんだろうなと言う結論に落ち着いた。
純二兄が乗り付けて来た白の乗用車は、今日の為に洗車をしたのだろう、太陽光に照らされて誇らしげに輝いている。後部トランクを開け、そこにパズルのように荷物を嵌め込むのが、今日の僕の最初の仕事だった。
「伸五、荷物整理出来たか?」
「もうちょっと、すぐ終わるよ」
「三葉ー! そろそろ~!」
「は~い! 今行く~!」
純二兄が家の中の三葉姉に声を掛ける。忙しない返事が聞こえた後、大きなボストンバッグを持った三葉姉が顔を覗かせた。
「忘れ物無い? 鍵閉めちゃうよ?」
「お前、一泊二日でどんだけ荷物持ってくんだよ」
「っるっさいわねぇ。女は色々と必要なのよ」
「そんなにでけぇ鞄入らねぇよ」
「大丈夫大丈夫。別に壊れ物は入って無いし、ギュッと押しこめばいいのよ。伸ちゃん、お願いね」
トランク近くで待機していた僕は、三葉姉からボストンバッグを受け取り、予め開けておいたトランクの隙間にギューギューと押し込んだ。それにしても、純二兄では無いが、本当に何が入ってるのだろう?
無事に詰め込みに成功し、トランクを閉めて助手席に乗り込んだ。運転席には純二兄、後部座席には父さんと三葉姉。
「うっし、そんじゃ出発するか」
「父さん、忘れ物とか無いわよね?」
「ああ、大丈夫だ、ありがとう」
父さんの声を合図に、純二兄がキーを回す。エンジンがかかり、車は緩やかに発信した。
母さんが死んで以来、初めての、親子水入らずの旅行だ。
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