戦う理由

絶耐糖度

第1話

 ぬかった。敵が個人でないと何故疑わなかったのだ。私とした事が、とんだ誤算だ。既に世界中に渡って敵は存在している。一手遅かった。

 

 このままでは何もする前に潰されてしまう。だがここでバレれば、計画が水の泡だ。何の為に娘に寂しい思いをさせてまで、ここまで力を注いだのか。妻の仇であり、娘の安寧である。

 

 だがこちらにだって味方はいる。この数年、必死に探した信頼出来る仲間が。私たちの管轄域であるこのRANGE.03で、私と同じように家族を殺された者や、敵の存在に感づいた者を引き入れた。

 

 ~


 「奴らはまだ動く気配はないか?もうすでにこちらの状況に気づいていてもおかしくはないのだが。」


 敵の動向が気になって、情報担当の柏に問い掛ける。

 

 彼はここでハッカーとして働いている。過去に何らかのサイトから敵の姿を意識し出し、一人で探りを入れていたらしい。私は機械いじり程度しか出来ないのでなかなか頼りにしている。

 

 「星哭さん、僕スーパーハッカーですよ?そう易々とこっちの情報流したりしませんって。」

 

 「そうか。流石だな。」


 「星哭、お前さんは心配性じゃな。ワシらがおるというのに。何のために手を貸しているかわたっとるのか?」


 宇郷のじいさんは銃がとても上手い。彼は奴らに孫をダシに脅され、殺された息子夫婦の代わりに、2人の子どもを育てるために、ここで働いているらしい。


 「ああ、じいさん、分かっていますよ。しかし、十分に警戒して損はしない相手だ。」


 そうだ、奴らは人の気なんて何も考えない冷酷な人間なのだ。いや、人間というのもおこがましい程の悪党だ。理想の世界だか理念だか知らないが、人様にかける迷惑なんざ考えていない。


 「ワシは奴らが人を殺すところを直接見てはいないからな、じゃが、お前さんらがそこまで言う相手だということは理解しておるわ」


 自分のためなら平気で人を殺すような奴らだ。私の妻も......。だがここで怒っていても仕方がない、それに私以上に奴らに恨みを持っている者もいる。皆それぞれに、奴らに対する因縁や思いがあるからこそ、こうして力を貸してくれている。


 「ねえ、星哭さん。もう一度言うけど私も連れて行ってもらえないかしら?」


 岩崎が尋ねてくる。こいつは宇宙観測官として最近から乗っている細身の女性である。私たちの動きを知ってからかかわるようになったので、奴らについて詳しいわけではない。が、とても頭がキレるので作戦を立てる際や、敵の動向を探るときなどに役に立つ。しかし......。


 「手伝ってくれるのはありがたいがな、何故そこまで仲間に加わりたいのだ?女性には些かきついだろう。ただでさえ命がけなのだからな。」


 「もう、今どきそういうのは差別ですよ。それに私、こう見えてもアルファ体術2.0持ってるんですよ?」


 「ああ、すまない。」


 岩崎はとてつもなく強いらしい。あまり怒らせないでおこうと思っていたところへ、私たちのムードメーカーであり常にうるさい環が口をはさむ。


「は、え?結意ちゃん2.0持ってんの?それって地球区N08で4人しかもってないやつでしょ?すごっ!」


 「ほう、その体術は知らんが頼りになりそうだな。わかった、だが危険であればすぐ逃げるのだぞ?お前は奴らと戦う理由はないのだからな。」


 「わかってますよ、星哭さん。でも守りたい人がいるのはわたしだって同じです。」


 「そうっすよリーダー、俺たちゃ初めから覚悟なんて決ま──」


 そんな会話を止めたのは柏木の声だった。


 「星哭さん!奴らが動きました。何らかの生体プログラムをばら撒いたようですがこちらに直接の被害はありません。」


 それはつまり、私たちを狙う必要がないほどに、奴らの準備が整っているということだろうか。それなら時間がない。


 「なんだと?地球上への攻撃がもう始まってしまったのか!」

 

 「いえ、これは恐らく地上で仲間を集めるための催眠プログラムですね。悪の種は撒かれた、って感じであまり猶予はありません。」


 準備を急がねばならない。たとえ殺されなくとも、奴らに操られ使い捨てにされることも防がなくてはいけない。


 ~


 私は、何としてでも成し遂げよう。愛する亡き妻の為に、最愛の娘を守るために。

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