王さま

アール

王さま

その王国は、遥か遠い山脈をいくつも超えたところにある大海の近くにありました。


新鮮な空気と栄養たっぷりの土、

そして日光という自然の恵みによって王国内の畑は豊作続きであった為、飢える心配はありません。


そして何より、国民からの信頼がとても厚いと評判の知力に優れた優しい王さまがこの王国を

治めていました。


「兵器を製造しない、持たない、持ち込ませない」


という決まりを作り、戦争をしないという事を全国民に向かって高らかに宣言したこともあります。


だからこそ、そんな慈悲深い王さまを

国民はもちろんのこと、他国の王さま達までが尊敬していました。


ですが一つ、おかしな決まりがその王国にはあったのです。


先ほども書いたとおりこの王国は大きな海の

そばにあるのですがという不思議な決まりがありました。


その決まりを破ってしまった場合は、どんな理由があろうと首をはねられてしまいます。


ですから大人たちは子供たちに向かってしっかり

その事を何度も何度も念入りに言い聞かせました。


その為、王国にといった文化は根付くことがありません。


ですが魚など取らなくとも、

栄養満点な作物が畑からたくさん取れます。


なので、あまりその事に国民たちは疑問を抱く事はなかったのでした…………。







そんな王国のある夜のこと。


王さまはこっそり数人の家臣と共に

城を抜け出すと、いつものように馬車をある場所へと走らせました。


王さま達の行き先は王国の南側に

ひっそりとそびえ立つ大きな黒い建物。


そこはこの王国唯一の刑務所でした。


そこには何人もの囚人たちが囚われています。


やはり、どんなに平和な王国であっても犯罪者は生まれてしまうものです。


殺人犯こそはいませんでしたが窃盗に強盗、障害を犯した犯罪者たちがそこに収監されていました。


そのおりの中の一つに王さまはこっそり近づくと、囚人たちにこう言いました。


「お前たち、すまない。

私が政治をもっとより良い政治をしていれば、犯罪を犯すこともなかっただろう。

全て私の責任だ。

さぁ、誰かに見られないうちに付いてきなさい。

ここから逃してやる……」


そう言って家臣の1人におりのカギを開けさせた王さまは、囚人たちを馬車へと乗り込ませました。


そしてある場所へと彼らを

連れて行ってやりました。


馬車から降りて着いた場所を見た途端、囚人たちは思わず目を丸くします。


「……こ、ここは海じゃないですか。

国民は海に近付いてはいけないのでは……」


と言う囚人に向かって王さまはにっこりと笑いました。


「これであの決まりの意味が分かっただろう?

私たちは夜な夜な、こうやって囚人たちを海へと逃してやっているのだ。

ここまで来れば国民の誰かに見られる心配もない。

もう2度と、悪さはするんじゃないぞ……」


「なんと慈悲深きお方なんだ……」


「この御恩は一生忘れません」


船に乗り込んだ囚人たちは、王さまに向かって手を合わせながら涙を流し、暗い海の上をゆっくりと進んでいきました。


王さまはそんな彼らの姿が見えなくなるまで、いつまでも手を振っていました。


そしてあたりに波の音だけが響く静寂が戻った頃、王さまはニヤリと笑って、こういった言葉を不意に口から漏らしました。


「よし、これでまた実験を進められる」











王さまのその言葉の後、

やがて、大爆発が囚人たちの漕いで行った

海の中心で起こりました。


辺りにいた魚たちを吹き飛ばし、

後には何も残りません。


もちろんその爆発に巻き込まれたのは囚人たちも、例外ではありません。


一瞬の大きな閃光の後、彼らの体と乗っていた船はたちまちのうちに粉々となり、そのカケラはたちまち海の藻屑と消えていきました。


安全地帯である陸地でその様子を一部始終眺めていた王さまとその家臣たち。


彼らはさも笑いが止まらない、といった様子で手を叩いて笑い転げておりました。


「おい、見たか。

死ぬ前の奴らの表情。傑作だったな……」


「ええ、それはもう。

ちゃんとカメラにもおさめておきましたよ」


「でかした。

これだからいつまで経ってもやめられないんだよな……」


「……しかし、さすが王です。

よくこんなことを思い付きましたね。

水爆の人体実験に囚人を利用するなんて。

あののおかげで国民にもバレることなく、囚人にもうまい具合に海へ誘導できる……」


「まぁな。

我ながら素晴らしいアイデアだと思ったよ。

犯罪者を刑務所で養うなんて、われわれの支払った税金の無駄遣いもいいところだ。

私の治める王国で不届きを犯した犯罪者どもには、死んでもらうのが一番なのさ」


「いやぁ、まったく。

さすがは王さまだ…………」




































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