第2章 諏佐野病院
ここは、諏佐野病院。
病院と薬屋が一緒になっている。
普通の病気や怪我から、呪いの解呪や、結界術を専門とし営業している。
兄の暁(サトリ)は、病院の院長を務め、弟の仁(ジン)は薬屋を取り仕切っている。
雲ひとつない快晴の今日、諏佐野病院に、ある1人の客が来ていた。
「月音さん。また怪我したんですか?日向さんがすごい形相であなたを運んできたんですよ。」
この人は聖坂 月音(ヒジリザカ ツキネ)さん。水神を祀る聖坂の当主で水神である日向(ヒナタ)さんのお姉さんです。先程意識を失った月音さんを、日向さんが泣きながらここへ連れてきました。
「えーっと…実は早朝に、妖怪退治の依頼が入りまして…」
「それは日向さんの仕事だったと思うんですが?」
ボソボソと話し始めた月音さんに俺はカルテを見ながら言った。
前もそうだった気がする。
「ほ、ほら!日向ちゃん…最近忙しいじゃない…?だから私もお手伝いしようと…思って…」
月音さんを呆れたように見つめる俺に気づくとだんだん声を小さくしてモジモジし始めてしまった。
またこの件で俺はこの人に叱らなくてはいけないのだろうか。
そもそも月音さんはあまり戦闘ができる人ではないし、それを加味して、月音さんよりかは戦闘ができる日向さんに妖怪退治や、所謂少し危ない仕事が回るはずだったのだが…最近はどうも日向さんより先に月音さんの耳に依頼が入っている。
月音さんは日向さんの役に立ちたいがために、こういう依頼が少しでも耳に入るとなんでもやると言ってしまうので、前までは月音さんの耳には入らないように手配されていたはず。聖坂での人員配置でも変わったのだろうか?
「月音さん。最近、仁に透身術を教わったそうですね?仁が覚えが早くて教えるのが楽しいって話してくれました。」
「そ、そうなの!仁くんとっても教えるのが上手で」
「何に使ってるんですか?」
月音さんの言葉を遮り聞くと、焦ったようにダラダラと汗を流し始め、目を泳がせる。
「え、えーっと…ほ、ほら…その…日向ちゃんを驚かそうと…」
「日向さんには透身術は効きませんが?」
目を泳がせて言葉を詰まらせながら言う月音さんにそれを伝えると、何かを思いついたように透身術を使い、スーッと、消えていこうとする。
「残念ですが月音さん。それは俺にも効きません。」
「えっ!?」
効かない訳では無いが、月音さんは素直なのでハッタリが効く。
俺や日向さんの言うことも素直に聞いてくれればいいのだが…
「月音さん。透身術を使ってこっそり日向さんへの依頼を盗み聞きしましたね?」
ギクッと肩を強ばらせ、たらたらと汗を流す。やっぱり。
「仁が言ってたはずなんですが?正しい用途で安全に使ってくださいって」
「で…でも…日向ちゃんを助けてあげたくて…」
「はぁ…とりあえずあと2日は入院です。日向さんがあなたを助けに行かなかったら危なかったんですからね。そもそも1人で毒蛇神を退治しに行くなんて普通は無理な話で」
長々と説教をしそうになった時に、診察室の扉が開く。
「兄さーん?その辺にしといてあげなよ〜月音さんも、悪気があったわけじゃないんだからさ〜」
仁が来て月音さんに寄り添う。
全くどうしてこいつはこんなにおちゃらけているのか…
「わかったよ。仁、月音さんを部屋まで案内してあげて。まぁもうどこに行けばいいとか分かってるだろうけど」
「もぉ〜兄さんいちいち嫌味ったらしいよ〜?」
仁を睨みつけると、こわー!いこ!月音さん!と言って診察室から2人は出ていった。
俺はもう一度カルテやレントゲンを見直す。
「毒蛇に噛まれて致死量の毒を流し込まれているのにもかかわらず、後遺症は勿論毒の影響もほぼ受けていない。多少の捻挫は見られるが骨折もないし、あんな大きな蛇に噛まれているのに大量出血した訳でもない…流石は聖坂と言うべきかは分からないが…にしても治りが早いな。」
昔からよく怪我をする人だったが、治りは人並み以下だったし、成長に伴い治りが早くなるのはよくある事だが、この治りの早さは人並み以上。聖坂の血が入っているからと言えばそれで終いだが…
俺は嫌な予感がして、家を出る準備を始めた。
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