やりこみゲーマー、リアルステ上げに本気出す

セラ

アイリとステータス表示アプリ

「あ、しょうへい。今日は来たんだ」

「おう、遊びに来てやったぞ」


 俺が部屋に入ると、アイリはこちらをちらりと見た。


 この部屋には足の踏み場がない。足元には洋服やお菓子の袋、ペットボトルが散乱してる。唯一生活できるスペースはベッドの上だけだ。そこにパジャマ姿のアイリがいた。俺の幼馴染だ。


 彼女はよく言えばぽっちゃり、悪く言えばデブだ。中学2年のころから部屋に引きこもるようになり、食べる寝るゲームするという堕落した生活をしている。俺は足元のゴミを踏まないように慎重に歩いた。


「部屋を片付けろよ」

「うん、あとでね」


 アイリはゲームをしていた。集中しているのか、返事はおざなりだ。


「今なんのゲームしてるんだ?」

「EF」


 EF、エターナルファンタジーの略だ。少し前に流行ったRPGだ。珍しいな、まだクリアしてなかったのか。いつもなら発売してすぐにクリアしてるのに。不思議に思いながらゲーム画面を見て俺は驚いた。誰も勝てないと言われ、誰も倒そうとしなかった序盤のボスを今にも倒しそうだったからだ。


 人間ゲームには、負けるとわかっていても戦わねばならぬ時がある。


 その敵は強大だ。誰もが勝てないと諦めた。減らぬ体力、一撃でほとんどのHPを持っていく高い攻撃力。屈強で大きな体は、序盤のボスとは思えない風格だ。誰もがすぐに負けイベントだと理解した。絶対に倒すことができない敵だと。実際、負けても問題なくストーリーは進む。しかし、アイリはいまだ序盤でありながらそのボスとまともに戦えていた。


「すごいでしょ、三ヶ月間レベル上げをしたの」

「三ヶ月!? まさか地道にレベルを上げたのか!?」

「一日中ずっとモンスター倒してた。暇だしね」


 こいつ、序盤の敵で三ヶ月間ひたすらレベル上げをしたのか。なんて馬鹿なことを。EFは適正レベルを超えると得られる経験値が極端に下がる。適正レベルを5レベルも上回れば、経験値はわずか1しかもらえなくなる。それなのに時間をかけて無理やりレベルを上げやがった。1レベル上げるのに数万から数十万の経験値が必要だ。単調な作業をどれほど繰り返したのか想像もできない。


 こんなバカなことをするのはアイリくらいしかいないだろう。誰もが負けイベントだと諦めたこのボスを倒すとどうなるのか、ちょっと楽しみな自分がいた。乗り出して画面を見る。そして終わりはすぐにやってきた。


 派手なエフェクトともに、ドロップアイテムを落としてボスが倒れた。そしてストーリーが進む。しかしストーリーはなにも変わらない。負けた時と全く変わらなかった。俺は肩を落として言った。


「え、これだけ?」

「みたいだね、大抵の負けイベントはこんなもんだよ」


 アイリは三ヶ月もレベル上げをして、苦労して倒したというのに平然としていた。たいしてして期待していなかったようだ。


「わかっていたのに、なんで三ヶ月もかけてわざわざ倒したんだ?」

「暇つぶし」


 そんなに暇なら部屋の掃除をすりゃよかったのに。そう思ったが何も言わなかった。何度言っても変わらなかったし。

 

「ゲームはいいよね。努力すれば必ず強くなるんだもん。……あーあ、大体のゲームをやりつくしちゃった。なんか面白いゲームしらない?」


 つまらなそうにアイリは言った。俺はちょっと変わったアプリを紹介してやることにした。


「変なアプリなら見つけたぞ」

「アプリ?」

「一応ゲームのカテゴリーにあったけどな」


 そういうと俺はスマホを取り出し、アプリを起動した。そしてカメラをアイリに向ける。


「やめて、撮らないでよ」

「違う違う、撮ってないって」


 そういってスマホをみせた。そこには顔を手で隠そうとしているアイリの姿と、ゲームにありがちな五角形のステータスを表すグラフがあった。


「やっぱり写ってるじゃん」


 そういうとアイリは俺のスマホを強奪し、画面を見る。


「なにこれ?」

「何って、アイリのステータス。そのアプリはカメラに映った人物のステータスがわかるんだってさ」

「ふーん。えい」


 アイリは俺にスマホを向ける。


「あはは、しょうへいステ低い」

「うるせえ、いくつだよ?」

「戦闘力F、頭脳D、魅力D、生活力F、センスF、だって」


 そう言ってスマホを見せてくる。低いな、五角形のグラフがかなり小さくかかれている。ふざけやがって。


「アイリどうだったんだよ?」

「おんなじだったよ」

「うわ手抜きだな。ランダム生成かと思ったけど、毎回同じかよ」


 この時はまだ、俺はこのアプリを信じちゃいなかった。全員に同じステータスを表示するインチキアプリだと思っていたのだ。だが、それが間違っていたことを後に知ることになる。




 アイリはかつてイジメを受けていた。俺はそれを知りながら、見て見ぬふりをしてしまった。イジメの対象が俺に代わるのが怖かったからだ。結果、アイリは引きこもりになってしまった。俺といるときは平気そうな顔をしているが、未だに部屋から出られないでいる。心の傷が癒えていないのだろう。


 いつか心の傷が癒えて、前向きになってくれたら……。部屋から出られないにしても、せめて勉強はしてくれるようになったらいいなと思っていた。このままでは学校の勉強に追いつけなくなる。ますます部屋から出るのが難しくなってしまう。


 しかし、アイリは食べる寝るゲームするという堕落した生活をしている。なんとかしなくては……。そう思っていたある日のこと。学校帰りにアイリの部屋に遊びに行くと、アイリがおかしくなっていた。

 

 アイリは左手だけで腕立て伏せをしながら、右手で勉強していた。


「な、なにをしているんだ? アイリ」

「ん……はあ……ふん……。えっと……、勉強と腕立て伏せだよ……」


 アイリは息も絶え絶えになりながら言った。


「それ、普通別々にやらないか?  というか、なんで急にそんなことを」


 するとアイリは腕立て伏せ勉強をやめて立ち上がり、嬉しそうにスマホを見せてきた。


「えへへ、見てみて」


 スマホの画面をみると、そこには心なしか少し痩せたアイリの姿と五角形のステータスが表示されていた。


 戦闘力E、頭脳C、魅力C、生活力F、センスF


「これがどうした?」

「もー、鈍いんだから。ステータスが上がってるでしょ!」


 そうだっけ? 前のステータスとか覚えてないしな。


「それがどうした?」

「これ本物だよ、だからステ上げをしてたの」


 たまたまじゃないか? 外見だけでステータスがわかるアプリなんて、現代科学じゃ作れそうにないが。毎回同じ表示をする手抜きアプリだと思っていたが、ランダム表示だっただけじゃないか? それがたまたま成長したように見える表示をしただけだろう。


 それか時間経過でステータスが伸びるようになっているとか。そう思ったが、せっかくやる気を出しているアイリに水を差すわけにもいかなかったので、黙っていることにした。動機がどうであれ、前向きに努力してくれるようになったのだ。喜ぶべきだろう。


「ねえ、それより勉強を教えてよ」




 それから2か月後

 アイリの家に遊びに行くと、家の前に車が止まっていた。俺は車に詳しくないが、なんとなく高そうに見える。アイリのおじさん、車を買い替えたのかな。家もなんだか少し大きくなっていた。増築したのだろうか?


 家に上がりアイリの部屋に入ると、そこは全く別の場所になっていた。かつてゴミだらけで足の踏み場がなかった部屋は掃除の行き届いた綺麗な部屋になっており、体を鍛えるジムの器具や本棚が置かれていた。


 そこにはぶかぶかのTシャツとジャージを着て、プリントを読みながらランニングマシーンで走り込みをしている女の子がいた。たぶんアイリなんだろうが、見た目が変わりすぎてちょっと信じられない。痩せてすっかり美人になっていた。


「ア、アイリだよな……?」

「はあ……はあ……ふう……。あっ、しょうへい。今日は来たんだ」


 声はアイリのものだった。やはり本人らしい。太ってるときもかわいらしい姿ではあったが、それはマスコット的な可愛さだ。それが痩せてこんなに美人になるなんて。しかもぶかぶかなTシャツを着ているせいで、脇や胸元が無防備でちょっとエロい。


「なにしてるんだ?」

「勉強しながらランニングだよ」


 アイリはランニングをやめ、俺の隣まで来た。手にはスマホを持っている。


「えへへ、結構ステ上がったよ。見てみて」


 アイリのスマホを見ると、すっかり別人になったアイリとステータスが表示されていた。五角形はずいぶん大きくなってきていた。


 戦闘力C、頭脳B、魅力B、生活力A、センスB


 確かに目に見えてステータス上がっている。このアプリ、やはり本物なのだろうか? アイリは努力が反映されていると感じたからこんなに努力しているようだし。しかしこのステータスの項目ってなんなんだろうな。頭脳とか魅力、戦闘力はなんとなくわかるが、生活力っていまいちピンとこないし、センスに至ってはどんなステータスなのかよくわからない。このステータスが高いと何ができるんだ?


「ねえ、信じた?」

「え? なにを?」

「この間まで、このアプリの事信じてなかったでしょ」


 さすがに付き合いが長いだけあるな、見抜かれている。正直俺は今でも懐疑的だ。そう思っているとアイリがじっと見つめてきた。


「うーん、まだ疑ってるでしょ。ねえ、しょうへいのステ上げもしよ? そうすればわかるよ」

「ええー、嫌だよめんどくさい」


 アイリは凝り性だ。もし一緒にステ上げをすることになったら、大変なトレーニングが待っている気がする。俺は絶対にやらないぞ。そう思っていた。




 翌日の事だ。学校が終わり家に帰ると、驚くことにアイリがいた。いつもジャージかパジャマ姿しか見ていなかったからか、私服姿のアイリは昨日よりもに綺麗に見えた。どうやらサイズの合う服を買ったようだ。


「アイリ……? なんでここに?」

「えへへ、きちゃった。おばさんに言ったらすぐ家に上げてくれたよ。しょうへいにこんな美人な彼女がいるなんて、だって。わたし美人?」


 おいおい母さんこいつ幼馴染のアイリだぞ、気づかずに家に上げてないか? というか、引きこもりは治ったのか?


「なあ、引きこもりはもう治ったのか……?」

「え、引きこもり? 出る気になればいつでも出れたけど」

「……ええー」


 うそだろ、俺はアイリが家から出られなくなってしまったと思って心配していたのに、いつでも出れたのかよ。


「ところで、なにしに俺ん家きたんだ?」

「一緒に勉強しよ?」

「いやだよ」

「15分でいいから。お願い」


 アイリは手を合わせて拝んできた。


 うーん、せっかく家を出るようになったのに、俺が断ったせいでまた引きこもりになられても困るし、15分ならいいか。


「15分だけだぞ」


 最初は本当に15分だけだった。そのあとは昔のように一緒にゲームをして過ごした。アイリが俺のせいで引きこもるようになってしまった、そういう思いから解放されたこともあって、いつも以上に楽しくすごした。だから俺はちょっと油断していた、それがいけなかった。


 アイリはそれから毎日俺の家にやってきては言葉巧みに勉強時間を増やし、いつのまにか筋トレもするようになって、気が付くと俺はアイリと一緒にステ上げをしていたのだった。




 1か月後

 なぜだろう、なぜ俺はこんなことをしているのだろうか。腕がもう限界だ。頭上からはアイリの声がする。


「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の……」


 俺はなぜかアイリを背中に乗せて、腕立て伏せをしていた。その間、アイリは俺の背中の上で教科書の朗読をしている。アイリは複数同時にこなせば効率がいいと思っている節がある。腕を鍛えている間、頭を使わないで休ませるのはもったいないと思っているようだ。一つ言わせてくれ、普通の人間は複数同時にこなせない。


 腕立て伏せしている間に教科書の読み聞かせもすれば、勉強と筋トレが同時に出来て効率的……。そんなわけあるかーー!! 教科書の内容全然頭に入ってこねえぞ。現実はゲームの効率プレイとはわけが違う。その辺をちゃんと理解してほしい。アイリがスパルタ過ぎる。俺は力尽きて床に突っ伏した。


「腕はもう限界? じゃあ次はねぇ……」

「なあアイリ、なんかもっと簡単ですぐ上がるステはないのか?」


 俺は次のトレーニングという名の拷問を言い渡される前に話しかけた。とりあえず会話中は休める。アイリは俺を頭の先からつま先までじっくりと眺めてから言った。


「……んー、あるよ?」


 あるのかよ!? じゃあ最初からそれにすればいいのに。


「じゃあ次はそれにしようぜ、今日はもう疲れたよ」

「わかったよ。しょうがないなー」


 そういうとアイリはスマホを取り出した。


「はい、立って」


 立たされると、アイリはスマホで俺の全身を撮り始めた。なにをする気だ?


「はい、今日はおしまい。ちょっと考えることがあるから今日は帰るね。明日駅前集合だよ」


 アイリは嵐のように去っていった。明日一体何をするんだろう?




 翌日、駅前に行くとアイリが待っていた。なんだかいつもより気合が入っているように見える。服装もいつもよりおしゃれだし。


「なあ、今日は何をするんだ?」

「今日はデートします」

「デート?」

「しょうへい、ださいからまずは身だしなみ整えてね」


 俺、ダサいかな……? たしかに今までおしゃれに気を使ったことはないが……。アイリは俺といるとき、ずっとダサいと思っていたのか……? ショックを受けた状態のまま俺は都心の美容室に行かされて、そのあと衣料品店を巡らされた。


 アイリは俺を着せ替え人形のように扱い、様々な服を着させられた。どうやら昨日写真を撮ったのは、今日俺に着せる服を考えるためだったらしい。次々と服を着させられる。そして気が付けば半日経っていた。


「なあアイリ、俺こんなに服を買うお金なんてなんだが」


 今日1日、俺は電車賃しか払っていない。美容室も服もいつのまにかアイリが払っていた。


「あ、お金は気にしないで。全部わたしのおごりだから」

「おごりっていっても、こんなお金……大丈夫なのか……?」

「ねえ、わたしのステ覚えてる? 生活力の項目があったよね」


 生活力、確かアイリのステのなかで一番高い項目だったはずだ。


「生活力はね、お金を稼ぐ能力の事なんだよ」

「お金を稼ぐ能力……? でもアイリは働いてないだろ?」

「FXやってるの、もう資産が10億円以上あるよ」

「……10億!?」


 俺はまじまじとアイリを見た。嘘を言っている様子はない。


「しょうへい、将来わたしが養ってあげようか? 毎日夏休みだよ」


 毎日夏休み? なんて魅力的な響きなんだ。俺は想像してしまった。都心の一等地に家を建ててアイリと一緒に住み、働きもせずに大きなテレビで毎日ゲームをして過ごす日々だ。最高だな、最高だけど……。それはさすがに、ダメ人間過ぎないか?


「……い、いや、やめておくよ」


 悩んだ末断った。即答せずに悩んでいた俺をアイリはにやにやして眺めていた。からかっただけなのだろう。俺は話を変えることにした。


「ところで、どうやってステを上げるんだ?」


 たしか、今日はステを上げるという名目で連れ出されたはずだ。今のところ買い物しかしていない。これからなにかステを上げるようなことをするのだろうか? するとアイリはスマホで俺を撮った。画面を見せてくる。


 戦闘力C、頭脳C、魅力B、生活力F、センスF


 お、少しステータス上がっている。特に魅力が高くなってるな。確か、Bはアイリと同じだったはずだ。アイリ並みのイケメンになったのか? すごくないか。


「魅力はね、顔だけじゃなくて服装とかの身だしなみも含むんだよ」


 なるほど、だから今日1日衣料品店を巡ったのか。


「じゃあ今日はこれで終わりか?」

「えー、せっかくだから遊んでこうよ」


 それから日が暮れるまで二人で遊んだ。まあ、俺もアイリもインドア派なので特に何かしたわけではない。ゲームショップを巡って、ゲーセンで遊んで、休憩がてらカフェで甘いものを飲んだ。それだけだ。




 数か月後

 ステ上げをしていてよかったことがある。高校に見事受かったことだ。アイリのスパルタなステ上げがなければ、決して受かるはずもなかった地元の進学校だ。成績が悪かった俺が受かった事に担任の教師も驚いていた。


 そして、同じ高校にアイリも通うようになった。登校拒否はやめたらしい。どうせアイリの事だ、一人でステ上げするよりも、学校で勉強したほうが効率がいいと思っただけだろうけどな。


 アイリが学校に通うようになると、途端に話題になった。あの美少女は誰だ? と。同じ学校から進学した奴もたくさんいるというのに、誰も不登校だったアイリだと気づかない。


 そして、目の前にいるこの男も気が付かなかったうちの一人だ。


 吉田浩平


 かつてアイリをイジメていたメンバーの一人だ。浩平は突如現れた謎の美少女と唯一仲のいい俺に、アイリを紹介してほしいらしい。


「なあ、あの美少女とどこで知り合ったんだ? 俺にも紹介してくれよ」

「紹介してもいいけど、お前には一ミリも可能性無いぞ。というか、お前も知っているはずだ」

「はあ? あんな美少女を知ってたら忘れるわけないだろ。誰だよ?」

「アイリだよ。お前昔イジメていただろ?」

「アイリ……? 嘘だろ!? あのデブが!? でもそういわれると、どことなく面影があるような気もするな」

「だろ? もうかまうのはやめておけよ」


 すると吉田は少し考えこんだ。


「……そうか、きっと俺に惚れてしまったんだな。そして俺に好かれるために努力したんだ」


 は? 吉田が突然意味不明な事を言い始めたぞ。


「ようし、彼女の努力を認めて俺の彼女にしてやろう。ありがとう正平、ではまたな」


 吉田は走り去っていった。多分アイリの教室に行ったのだろう。あいつどんな思考してんだ?


 その後に吉田を見かけると顔が倍にはれ上がっていた。アイリ、今戦闘力上げるために格闘技をやってるからな……。




 学校でのアイリは、かつて引きこもりだったことを感じさせない社交性を発揮し、多くの友人と仲良くなりトップクラスの成績を出した。ただ、友達付き合いは悪かったようだ。放課後は様々な習い事にいそしんでいたからな。そして、俺もその習い事に付き合わされていた。


 そんな日々をおくっていたある日、アイリが突然学校の屋上に呼び出してきた。いつも顔を合わせるのに、改まって急に呼び出すなんて。


 いや、用件は大体わかっている。きっと告白だろう。


 俺とアイリは、よく付き合っているのかと聞かれることがある。付き合っていないと言うと、すごく驚かれる。どうして? と。


 俺はこれまで、アイリを恋人として意識したことはなかった。しかし、周囲から頻繁に言われるようになったので今はかなり意識している。そして、意識するようになって初めて気が付いた。


 俺はアイリが好きだ。


 ただ、好きといってもそれが幼馴染として好きなのか、女性として好きなのか、自分ではよくわからない。俺は今まで、恋愛をしたことがないのだ。だから、もし告白されたらどうするべきか悩む。


 結局答えがでないまま、屋上についてしまった。扉に手をかける。


 ガチャガチャ。うん? ガチャガチャガチャ。え? あれ? 押しても引いてもドアが開かないぞ。


「しょうへい、なにやってんの」


 下からアイリが階段をのぼってやってきた。


「いや、扉があかなくてさ」

「あたりまえじゃん、屋上は立ち入り禁止だよ?」

「え? じゃあなんで屋上に呼んだんだよ」

「誰にも話しを聞かれたくなかったからだよ。はいどいて」


 アイリが鍵を使って屋上のドアを開けると、強い風が吹き込んでくる。アイリは髪を乱しながら屋上のフェンスのそばまで歩いていく。俺は慌てて追いかけた。


「ねえ、しょうへいはどうしていつも私につきあってくれるの?」


それは……。


「えへへ、わかってるよ。しょうへいもゲーマーだもんね?」


 ん?


「なんだかんだ、しょうへいもステを上げるの好きなんでしょ」


 え?


 アイリは手に持ったスマホを俺の前につきつけてきた。画面には美女となったアイリの自撮り写真と6角形のステータスが表示されている。


 戦闘力B、頭脳A、魅力A、生活力A、センスA、魔法F


 …………。

 ……。

 。


 魔法!?


「しょうへい、一緒に魔法覚えよ?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

やりこみゲーマー、リアルステ上げに本気出す セラ @sera777

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ