将来を考える

真兎颯也

地元に帰るつもりはなかった女の子の話

 「地元に帰るなんて」と、都会の大学に進学したばかりの頃は思っていた。


 私の地元は田舎だった。

 テレビなんかで紹介されるような田舎と比べたら、コンビニは車で10分ちょっとの所にあるし、他のお店も同じくらいの距離にあるからそこまで不便さはない。

 とはいえ、都会と比べてしまうと何も無くて嫌気がさす。

 好きなバンドのライブはこっちでやらないし、見たいテレビ番組もここでは放送されていない。

 自然豊かで良いじゃんという人もいるだろうけど、私はインドア派なので関係ない。

 そもそも、虫が家の中にまで湧いて出てくる場所に住みたいなんて思う?

 そんな場所でずっと暮らすなんて御免だと、私は逃げるように都会の大学に進学した。


 都会での暮らしは快適だった。

 歩いてすぐの所にコンビニはあるし、スーパーもある。

 部屋の中に虫を見つけることもあるけど、実家に比べれば全然少ない。

 見たいテレビ番組もやってるし、好きなバンドのライブだってチケットさえ取れれば行ける場所でやってくれる。

 一人暮らしだから自分の好きな時に好きなことができる。

 自由な暮らしも相まって、楽しい生活を送っていた。


 ある日の夜。

 大学から自宅のアパートに向かう道で、私はふと空を見上げた。

 よく晴れた雲一つない空には、星あかりがポツポツと見えた。


 ――地元だったら、もっと沢山の星あかりが見えたんだけどなぁ。


 そう、私は残念に思ってしまった。

 おかしい。

 私は田舎を出て、憧れの都会で暮らしている。

 あんな何も無いところに戻りたいなんて、どうしてそんなことを一瞬でも思ってしまったんだろう。

 ……きっと、疲れているのだ。

 一人暮らしは気楽で良いけど、最近は自分で料理をするのが億劫になってきていた。

 実家では母親や祖母が料理をしてくれてたから、人が作ってくれた料理が食べたくてそんな思いを抱くのだろう。

 そう無理やり自分を納得させて、その日はさっさと眠りについた。


 けれど、その日以降、私は度々故郷に思いを馳せるようになった。

 今暮らしているアパートの窓から見えるのは、周辺の工事現場と住宅街、そして遠く離れた場所にある高層ビルとマンションの群れ。

 実家の窓から見えたのは、実家の無駄に広い庭と田んぼと、果てしなく広がる山々の群れ。

 実家は真夜中になると虫の音や、フクロウの鳴き声が聞こえてくる時もあった。

 でも、アパートでは虫の音も聞こえず、真夜中に響くのは野良猫の鳴き声か、けたたましいバイク音くらいだ。

 都会に住んで色んな物が買えるようになったけど、買い物に出かけても人が多くて、ろくに見ることもできずに帰宅してしまう。


 本当は、わかっていた。

 都会が肌に合っていないということも、自分が地元に帰りたいと思っていることも。

 都会の快適な暮らしに浸っていたいと思う気持ちもあるけど、今はそれ以上に地元に帰りたいという気持ちが強い。


 もう強がるのは止めにしよう。

 私は地元に帰りたいんだ。

 それなら、大学で学んだ知識を地元で活用しようじゃないか。

 何だか、地元に骨を埋めるのも悪くない気がしてきたな。

 今からでも地元の就職先を探そう。

 田舎で少子高齢化が激しくて就職先を探すのもままならないかもしれないけど、それでも頑張ろうと思う。

 地元に帰るために、できることから始めていこう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

将来を考える 真兎颯也 @souya_mato

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ