第37話 辺境伯は流石でした

僕はデイジーのおっぱいにポーションを作るために吸いつきました。

ルーシーさんはデイジーが躊躇なく僕におっぱいを吸わせることに衝撃を受けたみたいですがそれも僕がポーションを作り出すまででした。


そして、今はルーシーさんの目は僕が渡したポーションに釘付けです。


「これは確かに今まで飲んだのと同じポーションね。

そう、オイゲン君は本当に母乳からポーションを作れるのね。

でも、だからと言ってなんでも私のおっぱいをわざわざ吸う必要があるのかしら」


やはり、そこが気になりますよね。

ちゃんと説明しましょう。


「デイジーさんの母乳で作ったのは一般的な病気回復ポーションです。

色々な病気から誰でも回復させますがその代わりに効力は小です。

それに対して病人本人から作る病気回復ポーションは本人の病気にしか効きませんが、その代わりに病気をかなりの確率で治癒させます」


「そう、かなりの確率かのね。必ずでは無いのね」


「そうですね。ポーションを作る時に具体的に病気が治るイメージを持って作るほど治る確率は高くなりますね。

だから、病気を理解してポーションを作らないとダメなんです」


「私の場合はどんなイメージを持てば良いのかしら」


「ルーシー様の場合は体に酸素を取り込む肺がやられていますので、肺が良くなるイメージをまずは持つ事です」


「肺って?」


「ルーシー様、大きく息を吸って下さい」


「す〜う、こうかしら」


「息を吸うと、胸の下が膨らむ感じがしませんか」


「ええ、確かにそんな感じはするわね」


「そこが肺です。そこに入った空気から酸素というものを身体の中に取り込んでいるのですが、ルーシー様の場合はそれが上手くいかなくなっているんです。

酸素が身体に入らなくなると人はすぐに死んでしまうんです。

ですから、ポーションを作る時に胸の下にある肺が良くなることを強く望んで下さい」


「望めば難病でも治癒が叶えられるのね。

オイゲン君、それって凄いことよね。

オイゲン君にそんな力があるって分かったらみんなオイゲン君のポーションを欲しがるわね」


「そうなんです。そうなるととても大変ですよね。

場合によっては僕の身に危険が及ぶかも知れません

ですから、ルーシー様にはポーションの作成者と作成方法の秘密を守ることを誓ってもらったんです」


「そうねオイゲン君。本当にありがとう.

オイゲン君はそんなリスクを負ってまで、私を治そうとしてくれているのね。

リスクを考えたら私の病気の治療なんかしなければ良いのにね」


「そうなんです。お母様、オイゲン様は無私のお心を持ったとても素晴らしい人なんです」


「ルーシー様、デイジーさん、このような話はルーシー様の治療が上手くいってからにしませんか。

まずはルーシー様用のポーションを作りませんと」


僕は自分が過大評価されるのがむず痒くて話を逸らします。


「そうですわ。お母様、急いでオイゲン様におっぱいを吸っていただかないと」


ありゃ、ルーシーさんはまた腕でおっぱいを隠してしまいました。

相当に恥ずかしいんですね。


「ルーシー様、これは治療です。医者にお胸を見せるのと同じです」


「そうですわ。お母様、少しも恥ずかしい事ではありませんよ」


「でもね、デイジー。貴方みたいにお胸を出しっぱなしでも恥ずかしがらないようには私はなりたく無いんですよ。

デイジーはいつまでお胸をオイゲン様に見せ続けるのかしら」


「きゃ」


デイジーさんが焦って服を整えて胸を隠します。


「トントントン」


ドアはノックされました、誰が来たのでしょうか?


「奥様、失礼いたします」


入ってきたのはメイドさんですね。


「あら、メイ、どうしたの」


「はい、ご領主様より先触れを賜りました。

ご領主様とカルロス様がこちらにお見えになります」


「ありがとう、メイ。お待ちしていますと伝えてくれるかしら」


「承りました。

デイジー様とオイゲン様もご領主様のおいでをこの部屋で待つようにとのことです」


うへっ、僕とデイジーがルーシーさんの部屋にいるって知ってるんだ。


「それでは、ご領主様とカルロス様をお迎えに行ってまいります」


「チリリリリン」


ルーシーさんがベルを鳴らすとメイと入れ違いに部屋付きのメイドが入ってきます。


「髪と服を整えて頂戴」


ルーシーさんに言われてメイドがルーシーさんの身繕いを始めます。

手早く髪をとかして服を整えた上で、薄く化粧もしていますね。

見違えるように美しくなられました。


メイドが手鏡でルーシーさんに出来栄えを見せていますがルーシーさんも満足顔ですね。


「オイゲン君、夫に多少なりともまともな姿を見せられるのもオイゲン君のおかげね、ありがとう」


「トントン」


「入るぞ」


ドアを開けて辺境伯と父さまが入ってきます。


「おう、ルーシー、身体を起こせるようになったのか。

それに美しいな、本当に美しい」


辺境伯の顔がほころんで笑っています。


「この間見たお前の顔には死相が浮かび、声をかけても返事も無く、正直諦めていたのだ」


「貴方。私、まだ暫くは貴方にお仕え出来そうですわ」


「そうか、ならば孫の顔を見るまでは生きろよ。

おう、君がオイゲン君か」


辺境伯が興味深げに僕を見ます。


「君の作ったポーションが無ければルーシーは死んでいたのだ。

君にはいくら感謝しても足りんな」


僕の作った?

おもわず、僕はデイジーの顔を見てしまいます。


「いえ、そんな。わたし、わたしは何も喋っていませんわ。

ルミウス神に誓ってもよろしいですわ」


ルミウス神はこの世界の主神です。そのルミウス神に誓う以上デイジーはなにも話してはいないのでしょう。


「ああ、オイゲン君、私はデイジーからは何も聞いてはいないよ。

ただね、君は色々とやり過ぎたんだ。

私は君ほどは頭は良くないが、一応は領地を治める身でもある。

君のおかしさぐらいは気付かないとね」


「それでも」


僕は上手くやっていたつもりです、なんでバレたのでしょうか?


「カルロスの領地で起こったおかしな出来事は私の耳にも入っているのだよ。

数日の内にみな死ぬだろうと言われていた帝国の近衛兵がなぜか四肢の欠損以外は完治して元気な姿でカルロスの領に居るだけでも不思議なのに、彼女達は君を神のように崇めているらしいじゃないか」


そして辺境伯は少し憤った目で僕を見据える。


「なあ、オイゲン君。妻のルーシーも娘のデイジーも君を気遣い私に厳しい目を向けている。

私の妻と娘は私より君の方が大事みたいじゃないか」


「貴方」、「お父様」


「ああ、悪かったね。ルーシーやデイジーを怒っているわけじゃないんだ。

ただ、オイゲン君がルーシーにそれだけの事をしたという事だろう。

まあ、結局の所、カルロス君に答えを聞いたんだがね」


「えっ、父さま」


父さま、なんでバラしちゃうんですか?

しょんぼりですよ。


「ああ、オイゲン君、カルロス君を責める必要はないよ。

彼は君との約束は破っていないからね」


「約束ですか」


「そう、親族と限られた者以外に君の秘密を話さないという約束さ」


「でも」


「そんな顔でお義父さんを見るものじゃないよ」


「お義父さんですか」


「そうだよ、私とカルロスで話し合ってデイジーを君の婚約者としたんだから」


この親父は何を血迷ってるんだ!

デイジーが僕の婚約者?

辺境伯家の正室の長女が騎士爵家に嫁ぐとかあり得ないだろう。


「お父様、オイゲン様が私の婚約者なのですか」


「そうだよデイジー。彼ならば君の婚約者として不足はあるまい。違うかな?」


辺境伯の言葉でデイジーが満面の笑みを浮かべます。


「もちろんですわ、お父さま。オイゲン様に不足などあるはず有りませんわ」


「そうか、ルーシーはどうかな」


「私は少し悔しいですわ。

私から貴方にオイゲン君とデイジーの婚約の相談をするつもりでしたのに。

それなのに……貴方の慧眼にはいつも驚かされますわ」


「そうか、慧眼か、確かにな」


「わはははは」、「おほほほほ」


嬉しそうに笑い合うのは良いのですが...

いや良くないです。僕を置いてきぼりで辺境伯家の皆さんが盛り上がってるのはどうかと思います。


「それにな、オイゲン君。儂は君にデイジーの胸の件を親として聞かなければとも思っていたんだよ。

だが、婚約者ともなればそのような些細なことにこだわる必要もあるまい。

いずれはオイゲン君の種で子を生み、乳で子を育てるのだからな。

ルーシーの胸も子を産んでから随分と大きくなったんだ。

まあ、同じことだ」


うわ、逃げ道は無いですね。

それにしても父さまは一言も話しませんね。

完全に辺境伯にやり込められたのでしょう。

まあ、役者が違うって事ですか。


僕は覚悟を決めました。

跪き辺境伯に御礼を申し上ます。


「私の様な菲才な若輩者を大切なお嬢様の婚約者に抜擢いただき望外の喜びでございます。

これから精進致しましてお嬢様の婚約者として恥ずかしくない男になる所存です。

お嬢様を有り難く頂きます」


「ほう、8歳児とは思えない口上だな。

やはり儂の目に狂いはなかった様だ。

オイゲン君、デイジーをよろしくな」


こうして僕とデイジーは婚約者になったのです。

僕は辺境伯に完敗しました。

亀の甲より年の功、この言葉を思い知らされました。


でも僕は負けたままでは終わりませんよ.

辺境伯さま、ここからは僕のターンですから。









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