Uターン禁止無視したら交通違反じゃなくて異世界行った件

八木寅

第1話 Uターン禁止無視したら交通違反じゃなくて異世界行った件


「今日も平和ですね……」

 パトカーで巡回中の車内。

 運転中の新人、多田志久ただしくが欠伸をしながら、助手席にいる先輩の塚前朗つかまえろうに話しかける。

「いや、そんなことはないみたいだぞ」

 左前方にある銀行から、いかにも強盗な集団(覆面、黒づくめ、ライフル所持)が出てきて、黒いバンに乗って走り出した。

「おい、追いかけるぞ!」

 塚がサイレンのボタンを押す。

「けど、何にも無線に入ってこなかったのおかしくないですか」

 多田は先輩に異を唱えながらも、車のスピードを上げる。

「警察に連絡できなかった理由が何かあるんだろ」

 後輩に適当に返し、塚は拡声器で前を行く車に指示を出す。

 強盗団のバンもスピードを上げるが、車の性能が良いパトカーがすぐに追いつく。

 が、近づいたところで、バンは交差点でUターンし、反対車線へ――

 パトカーはそのまま直進した……。

「え? おい! 何で、Uターンしないんだ」

 塚が取り乱してわめく。

「え、Uターン禁止って標識が……」

「いや、こういう場合は行くんだよ! 次の交差点で行け」

 今進む大通りは、反対車線との間に柵があり、交差点でのUターンでしか反対車線にいけない。

「はい。わかりました」

 多田は小さな声で返事をし、次の交差点でUターン(ここも禁止だったが)した――。


 途端に靄がかかる。それが晴れると――


「なんじゃこりゃ?」

「だから、Uターンなんかしたらダメだったんですよ」

 驚く先輩と冷静に返す後輩の目の前には、荒廃したメルヘンな町と、遠くのほうでうごめく大きな影。

「あ!」

「な、なんだ」

 多田がパトカーを急発進させ、塚がびくつく。

「奴らがいます!」

 どうやら、大きな影がある方へと進むバンを追いかけるらしい。

(え、この状況で?)と塚は思ったが、これが仕事だから仕方ない。


「おいおい、これはなんだ?」

 パトカーがバンに近づくにつれて、大きな影にも近づき、その全貌が露わになる。

「怪獣ですかね」

「そんなことわかるけど、現実にいるのおかしいと思わないのか?」

 冷静に答える多田に塚がイラつく。

「ここが異世界なら、当たり前でしょ、先輩?」

 そう塚に返す多田は嬉しそうな顔をしている。

「僕、異世界来てみたかったんですよね。転生できなかったのは残念ですけど」

 多田はそう言いながら、巧みなドライブテクニックで舗装されてない道を進む。

「おい、気をつけろよ。あれ、火を噴きつけてくるぞ」

 ガタガタ揺れる車内で塚は怪獣を睨む。

「任せてください。ゲームでよけるの得意ですから」

 これはゲームじゃなくて現実なんだけど……と、言いよどむ塚にお構いなく、多田が運転するパトカーはバンと怪獣にどんどん近づく。


 その頃、バンの車内は阿鼻叫喚だった。

「おい、おい、戻れ!」

「いや、捕まりたくない!」

「怪獣に殺されるー! あー!」

「うるさい! あんなの銃で撃ってやる!」

「おい! 止め――」

 怪獣に押しつぶされそうになったバンは急停止したが、前方が押しつぶされてしまい、動かなくなった。

「くそぉぉぉぉ!!!!」

 ライフルを持つ男が怪獣めがけて打つが、全く効果がない。

 怪獣は弾が当たった箇所を軽く掻くと、強盗団をぎろりと見てきた。

 青ざめる強盗団に、サイレンの音が――現実で聞きなれた音が近づく。

「おい、パトカーに乗せてもらうぞ」

「え、捕まるのやだ」

「言うてる場合か」


 壊れたバンから少し離れた所でパトカーを停止させると、バンから四人、血相を欠いて駆けて向かってきた。

 が、一人が銃を持っている。

「おい、助けてくれ!」

 強盗団がパトカーのの窓を叩く。

「銃を捨てて手を頭に」

 銃を危険視した塚が拡声器で指示を出す。

「早くしてくれ!」

 銃を持つ男が涙目になりながら銃を放り投げ、パトカーに近づく。

「先輩、早く入れてあげましょう。我々もここを早く動かねば危険です」

 多田にそう指摘され、塚は後ろに乗るよう指示を出す。

 強盗団は自らパトカーの後部座席に入ってきた。後ろ大人四人はぎゅうぎゅうである。

 強盗団が乗りきると、多田が急発進させる。

「おい、手を出せ。縄かけさせろ。嫌なら降ろす」

 こんな状況の中、塚は任務を遂行する。万が一、斬りつけられでもしたら危険なため、手を動かせないように縛りあげていく。


「先輩、大変です」

 縛り上げが完了すると、多田がそう言ってきた。

「ん? さっきから大変だが?」

「怪獣が追いかけてきて、引き離せません。むしろ、近づいて……」

「おい、サイレン止めろ!」

 強盗団の一人がそう叫び、塚は慌ててサイレンを止める。

 が――、怪獣はそれに関係なく、ずっとついてくる。

「先輩、こうなったら、ぎりぎりの所でUターン作戦はどうでしょう?」

「それはどういう?」

「崖とか川とかぎりぎりのところでUターンするんです。上手くいけば、怪獣を落とせるかもしれないし、もしかしたら、元の世界に戻れるかもしれません」

「よし、じゃあ任せた」

「イエッェサー!」

 ノリノリで任務を受ける多田に、塚が噴き出す。


 パトカーは崖にたどり着き、怪獣も迫る。

 後はUターンするだけ。だったのだが……

「ごめん! 距離感ミスったー!」 

「「ぎゃぁあああーーーー!」」

 車は崖をダイブした。


 そのまま、霧に包まれ――

「「?」」

 車は落ちず、空中に止まったかのように静かである。


 やがて霧が晴れると――

 車中は歓喜に包まれた。

 いつもの街並みが広がっている。

「なんだよ、帰りはUターンじゃないのかよ」


 ドカーン!!!!!


 多田がぼやいた瞬間、後ろから凄い勢いで押された。

 怪獣ではない。幹線道路上で停車していたパトカーは、後続車に追突されたのだった。

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