うるさい幼馴染

狐付き

子供のままじゃない

「Uたーん!」


 学校からの帰り道、宇久津冬武は疲れていた。

 原因は幼馴染である隣人の亜子のせいだ。

 亜子は10年前に隣へ引っ越してきて、以来冬武と一緒に過ごしてきた。


 彼女はとてもテンションが高い。子供のころからずっとそうだ。

 冬武も子供のころは子供らしくテンションが高く、一緒に騒いで遊んでいた。

 だが歳を取るにつれ、彼はだんだんと落ち着いた性格になっていった。しかし亜子は子供のころのまま、ハイテンション。一緒にいると恥ずかしくもありうざったく思える。


「Uたーん!」


 また亜子が叫ぶ。

 宇久津冬武の読み方は、うくつ──UKUTU、ふゆむ──FUYUMU。この名前のせいで「お前の名前、Uばっかだな!」と、小学校のころ悪友に言われ、以来彼は「U」と呼ばれるようになった。

 それを亜子がえらく気に入ったようで、未だに彼のことを「U」と呼ぶ。


「ねー、Uたん、聞いてるのー?」

「うるさい、帰れ!」

 あえて無視していたのに耐えきれなくなり、冬武は叫ぶ。


 亜子と一緒に帰りたくないからわざわざ遠回りをして寄り道をしているというのに、何故か亜子は追いかけてきた。


「酷いよUたーん」

「大声で叫ぶな恥ずかしい。それに俺はUじゃない」

 あのころの悪友ですらもう呼んでいない呼び方を未だに続ける亜子に苛立ちを覚える。

「なんでー? いつもそう呼んでるじゃんー」

「子供のころの話だろ。亜子だってもう子供じゃないんだからやめろよ」

「やだよー」

 亜子は目の下を指で引っ張り舌を出す。これも子供のころからやっていることで、冬武は少し苛立つ。


「お前はいつになったら成長するんだ?」

「してるよー、ほらほら」

 と、余分に成長した胸を強調させる。これには冬武も目をそらす。


「それは体が育っただけだ。成長というのは心も育っているべきだろ」

「うーん、それは難しいかなー」

 亜子は笑顔で答えるが、それを冬武を苛立たせる。


「なんでいつもそうなんだよ! 少しは自覚しろよ! もう高校生なんだぞ!」

 つい叫んでしまう。亜子は少し困った顔をして、それから少し真面目な顔になった。


「亜子ね、Uたんのことが好きなんだよ」

「知ってる」

「昔からずっとだよ」

「だから、知ってる」


 亜子はいつも冬武にくっついていた。周りから冷やかされたりからかわれたりしてもずっと一緒だ。

 子供のころは恥ずかしくて冬武はそれを剥がそうとしていたが、根負けしてもはや放置。亜子の執念が勝ったのだ。


「でもそれとこれとは話が違うだろ」

「一緒だよ」

 亜子の答えに冬武は顔をしかめた。嫌がっているというよりは、どういうことだと考えているようだ。


「亜子の心はね、Uたんが好きで、子供のころからずっと変わらないんだよ」

「いやそれはおかしいだろ。好きは好きのままで他の部分が成長してもいいと思うんだ」

「他が成長したせいでUたんへの好きが減っちゃうかもしれないじゃん。亜子はそんなの嫌だから」

 冬武は少し理解した。亜子は自分のことを一番好きなときの状態をずっと維持しているのだ。それはそれでかなりの努力が必要なことだろう。


 冬武も亜子のことが好きだった。いや、今でも好きだ。でも中学に入ってから、いわゆる中二病的なものが発症し、大人っぽい自分を演出するには亜子の存在が邪魔になっていたのだ。


 だがそこまで自分のことを好きでいつづけている亜子に、自分の背伸びが恥ずかしく思えてくる。


「……この先に子供のころよく遊んだ公園あるだろ。ちょっと寄っていくか?」

「うん!」


 冬武はかかとを下ろし、亜子と一緒に遊んでいたあのころの気持ちへ戻ってみることにした。

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うるさい幼馴染 狐付き @kitsunetsuki

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