異世界に王子として帰省しました

ムネミツ

異世界に王子として帰省しました

 「え? 俺って地球の人間じゃなかったの!」

 学ランにスニーカーに鞄と学校帰りの姿で夕方の田舎道から

青空に太陽が輝く花畑へと連れてこられた春馬はるま、少し離れた街道の先に

絵本にあるような白壁に赤い屋根のお城が立っている。

 「はい、妖精の国では女王は人間界からお婿さんを連れてくる習わしで

春馬様のお父様はこちらに連れてこられたのです」

 ピンク髪のボブカットにトランジスタグラマーなスタイルのドレス姿の

美少女が語る。

 「で、ここが俺の生まれ故郷なのはわかったけど俺は何で地球で育ったの?」

 ピンク髪の少女に春馬は尋ねてみる。

 「春馬様が生まれた時この国を闇の魔王が攻めて来たのです、先代の女王は春馬様を守る為に地球のお父様のご実家へ春馬様をお父様と一緒に戻されたそうです」

 ピンク髪の少女が語る。


 「……先代の女王、俺の母さんは戦いで死んじゃったって事?」

 春馬が会ったこともない母の最期について尋ねる。

 「はい、先代の女王は命を賭して闇の魔王を追い返したそうです」

 ピンク髪の少女は悲しげな顔で語る。

 「そうなんだ、それで君は何者なのかな? 教えて欲しいんだ」

 春馬は少女が敵意はないが只者ではないと感じて慎重に尋ねてみた。

 

「私は桃の妖精のモモリン、現在の女王の娘であなたをお婿として

お迎えに上がりました春馬様♪」

 ピンク髪の美少女、モモリンが名乗りを上げて春馬へと微笑み手を差し出す。

 

彼女の笑顔に見惚れた春馬はその手を取ってしまった。

 二人が手を取り合った瞬間、モモリンの背中からピンク色のハート型の翼が生えて

風が二人を空へと運び上げた。


 春馬はモモリンに魅了され、夢見心地になり自分が空を飛んでいる事に気づかず

いつの間にか城の広間に連れてこられていた。


 「あれ? ここは、お城の中?」

 気が付くと春馬とモモリンはドワーフやノームや羽の生えた妖精と言ったおとぎ話でも有名どころの妖精や火の精や木の精に水の精、風の精やら石の精と妖精達に囲まれていた。


 「「王子様のご帰還だ~♪」」 

 妖精達が春馬の来訪を万歳三唱で歓迎する。


 「春馬王子、よくぞお戻りになられました大きくなられて♪」

 ドワーフの老爺が泣きながら春馬に近づく。

 「……え~と、歓迎ありがとうございます」

 戸惑いながらも相手が温かく迎えてくれたことに対してお礼を言う春馬。

 「おお、何と礼儀正しい! 立派になられて」

 ドワーフが礼を言われて泣き出す、他の妖精達はドワーフじいさん泣いてら~♪

 と大笑い。

 そんな中、突如角笛の音が鳴り響き妖精達が道を開ける。


 春馬達が振り向くと、モモリンによく似た春の陽だまりのような温和な笑顔の

美しい白いドレス姿の女性が現れた。

 「え~っと、あれはモモリンのお姉さんとお兄さん?」

 「当代の女王、私のお母さまです♪ ただいま戻りました」

 モモリンが礼をしたのに習い自分も礼をする春馬。

 礼をした春馬達に微笑む女王。

 「お帰りなさいモモリン、春馬王子♪」

 優しく語り掛ける女王、その場にいる全員が幸せな気分になった。

 

 女王に続いて赤い絨毯が敷かれた城内の謁見の間へと向かう春馬達。

 玉座に付いた女王とその隣に立ったモモリン、春馬は宮廷の作法など習って

いないはずなのに自然と女王達の前に跪いた。

 「よくぞお帰りになられました春馬王子、先代から国を引き継ぎ十五年

ようやくあなたを迎えることができました♪」

 感慨深く語る女王。


 「え~と、ありがとうございます何も知らずに育ってきて戸惑っておりますが

とにかくありがとうございます」

 正直に戸惑いを伝えつつも礼は言う、自分に言えることはそれしかないと春馬は

己ができる事をした。

 「正直な良い子に育ったようで何よりです、娘の伴侶に相応しい男の子です♪」

 笑顔で重大な事を語る女王、モモリンも頬を赤く染めながら頷いている。

 「え? いや、その! 姫は可愛らしいのですが、俺で相応しいんでしょうか?」

 相手の親から娘の伴侶に認められるのは嬉しいが、春馬は自分に自信がなかった。

 生まれてからこれまで、女子にモテた事はない春馬はテンションがパニックになっっていた。


 「問題ありませんよ♪ 先代女王と決めていた事ですし娘もあなたを想っております♪ 娘は時々人間界に行っては、あなたと遊んだ事を自慢しておりました♪」

 女王の言葉に子供の頃、何故か自分になつく女の子がいた事を思い出す春馬。

 「あの、もしかして姫は桃ちゃん?」

 春馬の問いにモモリンは頷く。

 「はい♪ 子供の頃かくれんぼとか一緒に遊びましたよね♪ 人間界にはなかなか来れず一緒に過ごせなくてごめんなさい、けれど妖精さん達に春馬様の事はいつも見せてもらってました♪」

 照れながら春馬を監視していたことを告げるモモリン、人間からすればストーカーなのだが妖精だし感性が違うのも仕方なしかとスルーした春馬だった。

 「うふふ♪ 二人の仲が温まって来たようで何よりです♪」

 女王は娘と春馬のやり取りを微笑ましく眺めていた。


 だが、平和な時は破られる。

 「大変です、闇の魔王の軍団が攻めて来ました!」

 小人が敵襲を告げに来る。

 「ああ、こんなめでたい日に! 戦の用意を! 春馬王子とモモリンは人間界へ避難させねばなりません!」

 女王は春馬達を避難させようとする、だが春馬は拒絶した。

 「待って下さい! 俺は戦います、この国が故郷だって実感とかないけれど蹂躙されるのは見過ごせません! 俺に戦う武具を下さい!」

 春馬は訴える、その訴えに女王は頷いた。

 「私も戦います、二人でこの国難を乗り切って見せます!」

 モモリンも戦うと訴える。

 「子供達を戦場に出したくはありませんがわかりました、王子は娘を頼みます」

 女王は、懐からベルを取り出して鳴らす。

 すると配下の妖精達がハートの飾りがついた二つのブレスレットを持ってくる。

 「これは貴方達の鎧と武具が収納された魔法の腕輪です、お使いなさい」

 女王からブレスレットを嵌められる春馬とモモリン。


 二人を輝きが包み光が消えるとそこには全身を鎧で覆った二人の騎士がいた。

 春馬は黒いハートを模した騎士、モモリンはピンクのハートを模した騎士へと

変身していた。

 「こ、これが私達の武具!」

 モモリンが姿が変わった自分を見て驚く。

 「ええ、妖精の国の女王と王配の鎧ですそして春馬王子には先代から預かった

こちらの角笛をお返しします」

 女王が黑いハートの騎士となった春馬に角笛を渡す。

 「これは一体? どう使えば?」

 使い方を尋ねる春馬。

 「それを吹けば、これまでの戦で散っていった死者の軍団が力を貸してくれます。モモリンの父である私の夫もあなたに力を貸してくれるでしょう」

 女王の言葉からモモリンの父が戦死したことを知る春馬。

 「はい、ありがたく使わせていただきます!」

 支度を整えた春馬とモモリンは城を出て行った。

 

 外の景色は青空と暗雲が世界を二分していた。

 暗雲の下にはゴブリンやオークと闇の軍勢、それを迎え撃つは妖精達の軍団。


 闇の軍勢の飛び道具を風の精が防ぎ、地の精や石の精が落とし穴や投石で敵の前衛の進行を阻みドワーフの戦士やエルフの弓兵が応戦して持ちこたえていた。

 そんな中、ケルピーを駆って戦場に現れたのはハートの騎士となった春馬とモモリンだった。

 「あれはハートの夫婦騎士! 王子達が来たぞ! 士気を上げろ~!」

 春馬達を見たドワーフが叫び、妖精軍の士気が上がる。

 士気の上がった妖精軍達は、水の精が津波を起こし火の精が火の玉となって突き進みと戦線を押し返し始めた。


 それに続いて春馬達も進む、春馬が渡された角笛を吹きならせば彼らの背後から霧が立ち込め死者の騎士達や槍兵に歩兵に弓兵が現れて援護する。


 彼らの行く手に立ちふさがるのは、小山の如き体躯の闇の魔王だ。

 「妖精共、貴様らを滅ぼして世界を我が物にしてくれる!」

 黑い雷を放ち春馬達の動きを止める闇の魔王。

 「お前の好きにさせない!」

 「この国は私達が守ります!」

 魔王の攻撃にひるむことなく馬上で槍を突き上げ突進する二人。


 二人の槍の穂先が重なり巨大なハート形のエネルギーが生まれ二人を包む。

 二人を包んだエネルギーの塊が空を飛び、魔王の体を突き破ったっ!

 「馬鹿な! 妖精共にこんな力が!」

 叫びながら消えていく魔王、元に戻って振り返る春馬達ハートの騎士。

 「生きてる者と死んだ者の世界を愛する心が生んだ奇跡の力だ!」

 春馬が叫ぶ!

 「例え貴方が蘇ろうとも私達はまた迎え撃ちます!」

 モモリンも叫ぶ!


 闇の魔王は断末魔の叫びを上げて消えて行き、戦いは春馬達の勝利に終わった。

 その後、今度は人間界を狙い復活した闇の魔王を討つべく春馬達は地球へUターンする事になるのはまた別のお話。

 


 

 



 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

異世界に王子として帰省しました ムネミツ @yukinosita

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ