楽園

星成和貴

第1話

 パラレルワールド。並行世界。

 この世界から分岐した別の世界。昔は空想上の物、そう思われていたが、2045年頃にとある科学者が実在を証明した。そして、2083年。並行世界へと航行する術を見出だした。それからさらに時間は過ぎ、2120年。並行世界への一般人の旅行も海外へ行くような感覚で日常的に行われるようになった。

 歴史に『もしも』は存在しない、と言われるが、この並行世界はその『もしも』が現実になった世界だった。世界を揺るがすほどの大きな選択、その選ばれなかった世界が並行世界としてその度に生まれていた。

 故に、その数は無限にも存在し得る、と推測された。

 その中にはこの世界より文明の発達した世界、人類が滅亡した世界、様々な世界が存在していた。そして、そうなれば当然の様に悪しき事を考える人も出てきていた。



「さぁ、人は集まった!金も、十分にある!ならば、今こそ計画を実行に移すとき!」

 とある廃屋の地下で一人の青年が声をあげると、周囲から歓声が響き渡った。

「まずは、予定通り10のチームに分ける。各々、目的に合う場所にたどり着かなければ、即帰還するように!」

 そして、そこに集まった人たちはそれぞれの目的の地へと旅立った。


 1チーム目。

 着いたのは核戦争後の世界。自然は回復しているが、人は誰もいなかった。そして、独自に進化した凶悪な生物も多数いた。

 故に、その場から即座に逃げ出し、元の世界へとUターンして戻ってきた。


 2チーム目。

 戦争のなかった平和な世界。ただ、外との争いがなかった代わりに、内部の結束が固かった。つまり、部外者の排斥が想像を絶するレベルで行われていた。

 故に、その世界を見限り、元の世界へとUターンして戻ってきた。


 3チーム目。

 火星への移住が完了した世界。地球は犯罪者の流刑地となり、無法地帯と化していた。

 故に、危険から逃れるように、元の世界へとUターンして戻ってきた。


 4チーム目から9チーム目までもすぐに戻ってきた。しかし、10チーム目はなかなか戻ってこなかった。

 故に、皆は期待していた。自分達の楽園と思える世界が見つかった、と。しかし、その期待は裏切られることになる。戻ってきた10チーム目のリーダーは皆が揃っていることを確認すると、言い辛そうに口を開いた。

「遅くなって申し訳ない。着いたときには見つけた、そう思ったのだが、実際は行動に自由がなかった。AIが全てを管理し、行動にもいくつも規制があった。我々が移住したとしても、恐らくは今よりも規制が多くなると思う」

 その言葉に元々知っていた10チームのメンバーさえも、全員が落胆の表情を見せた。



 この様子を見ていたパトロンは次の候補世界を探し始めた。既に旅行者等が多数、向かっている世界は最初から除外していた。

 何故なら、この世界は身分の格差が激しく、低い身分では与えられる自由も行動も制限が多かった。そして、ここに集まっているのは身分が底辺の者がほとんどであった。そして、彼らの目的は身分に左右されず、自由な世界で生きることであった。

 しかし、彼らは気付いてはいなかった。パトロンの庇護に入っていることにより、相当の自由が与えられていることに。そしてそれは、彼らが求めていたものに限りなく近い、と言うことにも。

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楽園 星成和貴 @Hoshinari

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