おかあさんとぼく

エリー.ファー

おかあさんとぼく

 ぼくはお母さんのことが大好きだ。

 いつだって、お母さんのことを考えている。

 友達には気持ち悪いと言われるけれど、お母さんのことを好きだという気持ちには嘘は付けない。

 だって、そうじゃないか。

 お母さんが頑張ってくれたおかげで、ぼくはここにいるんだから、そこで嘘をついてもしょうがない。本当に心のそこから感謝をしている。

 いつだったか、ぼくが同級生にいじめられて川に突き飛ばされたことがあった、その時は台風の後で氾濫していたから、本当に死ぬんじゃないか、とおもったものだ。

 でも。

 お母さんがその時、川に飛び込んで僕を助けてくれたんだ。

 偶然だった。

 お母さんはその時、仕事場から少し体調が悪くて帰って来るところだったらしく、本当に僕は運が良かったらしい。

 お母さんもあんまり泳げないはずなのに、なんとか僕を抱きかかえながら泳いで、岸にたどり着いた。

 僕はその日のことを鮮明に覚えている。

 おかあさんはその後、その同級生の親に連絡して、それはもう鬼と見間違えてしまうくらいに怒っていた。ぼくが、今後学校での立場が悪くなってしまうことを考えても、ここは強く言った方が良いと思ったのだと思う。

 ぼくは、おかあさんのそういう判断ができるところも大好きだ。

 おかあさんは、その後も色々とぼくによくしてくれた。

 まぁ。

 親子だし、当たり前かもしれないけれど。

 中学生になってからは、ぼくに中々彼女ができないのを心配して、女の子を脅してくれたし。

 高校生になってからは、ぼくの成績が悪くなったのを心配して担任の先生を脅迫して、少しでも内申点が良くなるようにとがんばってくれた。

 大学生になった頃には、ぼくがサークルで女の子に強いお酒を飲ませて動けなくなしてから、車に乗せて夜の山で楽しく時間を過ごそうとした時に、ちゃんと女の子たちの個人情報を写真でとっておいて、警察に相談できないような手筈を整えてくれた。

 そして。

 ぼくは社会人になった。

 お母さんは、今田舎で一人で暮らしている。

 小学校、中学校、高校、大学。

 ぼくはいつだって、おかあさんに甘やかしてもらっていたけれど。

 決して。

 厳しくなかった、ということではない。

 だって、もうぼくの右手の親指は曲がらなくなってしまったし、背中についている火傷の跡はこれから一生かけても治らないし、今でも背伸びをしたりすると皮膚が引っ張られて痛くなってしまう。

 右目だって、勉強ができないばっかりにお母さんに潰されて義眼だけれど、ちょっとでもお母さんの自慢の息子になりたくて頑張ってきた功績でもあるのだ。

 だって。

 お母さんが、娘なんかじゃなくて、息子が欲しかったって、ずっと、ずっと、泣いていたから。

 ぼくはこうやって。

 男の子として生きている。

 いや。

 そんな言い方をする年齢じゃないか。

 ぼくは、男性として生きている。

 お母さんの大好きなぼくがちゃんとここに存在して、お母さんのことを思っている。

 お母さんと一緒に生活はしていないけれど、ぼくはお母さんのためにだったら、何でもやったし、何でもやれるんだ。

 お母さんが大好きだから。

 でも、大人になって、思う。

 ぼくもこれだけお母さんの気に入る息子になったんだから、そろそろお母さんも僕の好きな、気に入るお母さんになってもらいたいんだ。

 お母さんもきっと、僕の気に入るお母さんになりたいと思っているに違いないんだ。

 僕はもうすぐ、結婚相手を連れてお母さんの元に帰るつもりだ。

 それよりも前に、何回かお母さんのもとに帰って、好きな人に紹介できるような、ちゃんとした僕のお気に入りになってもらわなくちゃいけない。

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