14 桜子の計画

 最近、ちょっと気が付いたことがある。


「んっ……」


 彼女は俺とキスをする時、緊張するためか両手を軽く握った状態で肩くらいの高さに上げているのだ。


 ぶりっこな女が走る時のあのポーズである。


 それを指摘したら、


「ぶっ殺すわよ」


 と怖いことを言われたけど、顔は至極照れまくっていたので可愛かった。


 そして、今日も俺達は一緒に夏休みの宿題をしている。


 俺が彼女を下の名前で『桜子』と呼ぶようになってから。


 彼女はぴっちりした服から、大胆なキャミソール姿に代わっていた。


 細いヒモみたいな部分しかないせいで、彼女の白くて華奢な肩のラインが露わになっている。


 それに反して、胸の辺りはとてもムッチリしていた。


「どこを見ているのかしら? 変態な彼氏さん?」


「むしろ、見せているんじゃないですか? 変態な彼女さん?」


 俺が言い返すと、彼女はぷくっと頬を膨らませる。


「何よ、嬉しくないの?」


「控えめに言って最高です」


「あら、嬉しい。じゃあ、中身も見せてあげようか」


「いや、それは逆にエロくない。キャミソールからこぼれそうな巨乳の加減がエロいんだ。裸よりも服を着ている方がむしろエロい時の方が多いんだ」


「分からないわね、男心は」


「女心ほどじゃないよ。特にお前は面倒くさいからな」


 俺が言うと、彼女はジロリと睨んで来る。


「冗談だって、怒るなよ」


「お前じゃなくて……名前で呼びなさいよ」


 彼女はわずかに頬を赤らめて言う。


「ああ……桜子」


「キュン」


「それ何で声に出すんだよ」


「ハッ、ごめんなさい。つい嬉しくて」


「別に良いけど。おっぱいも気持ちも、もっと隠せよ」


「ムカツク男ね」


 それから、俺たちはひたすらにカリカリと宿題を進めて行き……


「……お、終わった」


 本当に7月中に宿題が完了した。


 今までに無かった経験だから、俺は驚くと同時にある種の清々しさを感じる。


 まあ厳密に言うと、今日は8月1日だけど。


 桜子があえて少しだけ残した状態で今日を迎えようと言ったのだ。


「無事に終わったわね」


「ああ、桜子のおかげだな」


「光一もよく頑張ったわ。だから、ご褒美をあげる」


 そう言って、桜子は大胆にも俺の首に腕を回す。


 顔を真っ赤にしている辺り明らかに緊張しているけど。


 俺は茶化すことなく、彼女の好意を受け入れた。


 唇を優しく重ねる。


 胸も優しく揉んだ。


 そっと離れる。


「……今日もおかわりするのか?」


「いいえ」


「そっか。じゃあ、これから外にでも出掛けて……」


「まだご褒美は終わっていないわよ」


「えっ?」


 軽く戸惑う俺をよそに、桜子は立ち上がって、勉強机の引き出しから何かを持って来た。


「こ、これって……」


 それは、いつぞや購入したブツだった。


 几帳面に一個一個バラして、おまけに日ごとに区切られて並べられている。


「……夏休みの宿題に自由研究なんてあったっけ?」


「は? 無いし、あったとしてもこんなの提出したら終わるわ」


「ですよね」


 俺は半笑いする。


「ほら、前にあなたが言ったでしょ? 1箱で30個入りだから、ちょうど1ヶ月分だって。夏休みだから、毎日一緒にいて出来るでしょ?」


「お前……だから、わざわざ今日宿題が終わるように……」


「言わせないでちょうだい……」


 桜子は赤らめた頬を両手で押さえて言う。


「……まさか、お前がこんなエッチな子だったなんて」


「な、何よ……もしかして、嫌いになった?」


「いや……むしろ、好きになったかな」


「やだ……ダーリン♡」


「デレの角度がエグい」


 そこで、俺はふと気が付く。


「けど、8月は31日までだろ? 30個だと1日分足りないぞ?」


「大丈夫、コレを見て」


 俺は桜子が指差す8月31日と書かれた日の分に目をやって……


「…………え?」


 それは他の物とパッケージが違った。


 黒くてラメが入っているデザインである。


「コレ、どうした?」


「1個でバラ売りしていたものを買ったの。エッチなお店で」


「お前……高校生はダメなんじゃないのか?」


「大人っぽい服装で行ったから余裕だった。むしろ、店員さんも鼻をひくつかせて興奮しながら売ってくれたわ」


「ダメな大人だな」


「これは夏休み最終日に使う特別なものだからね」


「はぁ……そんなに違うものなのか?」


「し、知らないわよ。だって、私は経験がないし……」


「まあ、俺もですけど……」


 俺たちは自然と見つめ合う。


「え、ていうか、本当にしちゃうの?」


「何よ、私としたくないって言うの?」


 桜子はジロリと睨む。


「いや、したいと思っていたよ。となりの席になった時から」


 俺が真っ直ぐに見つめて言うと、桜子のきれいな瞳が弾けた。


「……わ、私もです」


「下手くそだったらごめんな」


「大丈夫、あなたはきっと上手いわ。だって、とてもエッチなんだもの」


「お前に言われたくないよ」




 こうして俺たちは、お互いに初めてを経験した。







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