ゲームに見る主人公の哲学

作家者

第1話

人はどこから来て、どこへ行くんだろう。

誰もが一度は考えてどうでもいいかと投げ出すこの課題。

真剣に向き合おうとする若者が今ここに。


「橘、橘!」

遠くの方から自分を呼ぶ声がする。

身体が少しずつ揺れ始め、

「橘!」

という男の大声に、顔を上げる。

「橘。ようやくお目覚めか?」

その男は少し震えながら、こちらを睨んでいる。

「おはようございます」

「おはようございますじゃない!」

どうやらまた眠ってしまったようだ。

「次のページここから読むんだ」

「はい」

言われた通りに英語の教科書を読んだあと、

「やればできるじゃないか」

先生は少し満足したように授業を進めていく。


最近よく眠れない。それもこれもあの質問のせいだ。

「たくさん勉強して、いい学校に入って、いいところに就職する」

先生も学校もよく言っていた。その通りだと思っていた。

勉強もした。望まれる学校にも入った。が、

「あなたも中学生なんだから、自由に生きていいのよ」

という突然の母からの独立宣言。

自由とは?

漠然とし過ぎて、いまいちピンとこない。

自分が深く考えすぎなのかもしれない。

そんなことを考えながら今日も一日が過ぎていく。


自分はTVゲームが好きだ。

得意ジャンルはRPG。仲間と協力して、さまざまな強敵と戦い目的を達成していく。

そこに「自由」という言葉も出てくる。

「囚われの姫を救い出してほしい」

「魔王を倒してほしい」

「世界を救ってほしい」

悪役から主人公が世の中を取り戻す設定が多いのだが、

主人公の意思が確認できない作品も多い。

村人にお願いされているとき、本当に主人公は快く引き受けているのか?。

現実世界に置き換えてみる。


隣町の駅に移動し、改札を出たところで声をかけられる。

「ここは〇〇駅、冒険者のみなさん。はじめまして」


そんな事を言ってくる普通の人に僕は出会ったことがない。

彼らの依頼に僕がなぜ答えなければならないのだろう。


ゲームの世界では話が進まないので結果。答える形になる。

それは自分がゲームをクリアしたいという欲求があるからだ。

では、現実はどうだろう。


何かをお願いされたとき、自分にとって得のある行為でなかったら、断ってもいいのだろうか。

「なぁ、今日ちょっと時間取れる?」

「何?」

「いや、買い物行くから付き合ってもらおうと思ってさ」

「嫌だ」

「え?」


シミュレーションしてみたが断られる事を想定していない相手が多い。

そもそも断られる可能性が多い頼み事をする人間は少ないからだ。

一定の関係性があるから、「どこかへ遊びに行こう」などの言葉が成立するわけで、全く知らない人から言われたら断られる確率は非常に高い。


そう考えたときに、ゲームの主人公はなんて心が広いんだと思う。

「世界を救ってくれ」

という漠然とした問いに、YESで答えられる。


待てよ。YESで答えたから、世界を救わざるをえなくなったのでは?。

もともと彼は正直者で、言われたことは実行する人間だった。

それを知った王様が彼の責任感を見抜いての問いだったとしたら・・・。

その後、彼はYESを繰り返し世界を救っている。


そうか!

力がなかったけど責任感で彼は世界を救っていたのか!

頭の中のもやもやが消えていく。早速家に帰って実践してみよう!

「ただいま」

「おかえり」

「宿題やった?」

「まだー」

「早めにやりなさいよ」

「NO」

「え?」

僕はゲームの主人公じゃないから。


彼の名前は「橘はじめ」世の中をゲームで斬っていく若者である。

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