第28話


 数日が経過した。


 果物や小麦などを回収し、さらにまたそれらの栽培を繰り返している。

 また、村内に造った訓練施設――というか確保した土地でひたすらに鍛錬を行っていった。


 新しく何かをするというよりも、こういった基礎固めに重点を置いていた。

 ……いつ、北のワーウルフがこちらへ攻め込んでくるかも分からないからな。

 万が一を考えれば、新しく何かをするよりも今ある戦力の強化に重点を置いたほうがいいだろう。


 俺は新しく製造した鉄製の剣を持つワーウルフたちと向かい合い、剣を振っていた。


「ダメだ、まだまだ魔力を意識できていない、次!」


 斬りかかってきた一体のワーウルフをあしらい、次の訓練者を呼ぶ。

 次はゴブリンだ。

 ゴブリンは魔力を高めていく。水属性の魔力だ。水剣流だろう。


 ゴブリンの集中力が高まっているのがわかる。それを妨害するように、俺は魔法で攻撃を行っていく。

 ゴブリンは全身に魔力を流し、集中を維持している。


 今やっている訓練は、自身に適した魔力の把握、またそれの使用、維持、強化だ。

 ステータスの強化も大事だが、こういった技術的な部分での強化も大切だからだ。

 

 ただ、闇雲に無属性による強化を行うよりは、自分に適した属性で肉体を強化したほうが断然効果は上だからだ。

 ゴブリンの集中をかき乱すように魔法を放っていくが、ゴブリンはそれをかいくぐる。


 そして、俺へと一気に迫り、剣を振りぬいてきた。

 俺も剣を抜き、受け止める。お互い刃のある剣だ。気を抜けば、確実に怪我をする状況――それが俺にとっての訓練にもなる。

 ゴブリンにしろ、ワーウルフにしろ、俺とのステータス差は圧倒的だ。


 普通にしていれば俺が負けることはない。

 ……だが、すこしでも気を抜けばやられる。自分の命をぎりぎりの場所に置いておくことが、成長につながる。

 ゴブリンの体を払うように剣を振りぬくと、ゴブリンは地面を転がった。


「よく集中できていた。その調子で繰り返していけば、魔力変化、強化もできるようになるはずだ」

「はい!」


 その調子で、俺は次のゴブリンを呼ぶ。

 剣を振りながら、考えていく。……ステータスはこういった鍛錬でもあがるのはすでに分かっている。

 ゴブリンやワーウルフを鍛えているのだが、俺の場合は自分のステータスにも関わってくる。


 ……他の人の倍以上の速度で成長できるというのは、便利すぎるな。

 

 俺も相手にあわせて魔力変化の訓練を行っていく。

 ……ゴブリン、ワーウルフたちはそれぞれ得意な属性がまるで違う。

 だから、体内の魔力を切り替えるという訓練にもなる。


 軽く息を吐き、汗を拭う。

 休みなく動いていると、さすがに体への疲労も蓄積してくる。


 ……すでに、ゴブリン、ワーウルフの全員が鉄製の剣になっている。

 逆に、リビア、オルフェは俺が付与魔法で強化した少し良い剣になっている。そこは配慮した形になっている。

 そもそも二人の村への貢献度は大きいしな。皆納得してくれている。


「ああ、くそ! クレストさん、滅茶苦茶強いな……」

「そりゃそうだろ……だって、リビアさんとオルフェさん二人がかりで戦っても勝てるか分からないんだぜ?」

「ほらほら、泣き言言ってんなよ。きちんと強くなって、次の戦で活躍してオレたちも良い武器を造ってもらおうぜ」


 嬉しそうな様子で、皆が武器への思いを語ってくれている。

 どうやら、俺のご褒美作戦は成功したようだな。

 

 ……これは上界の国を参考にさせてもらった。

 上界では活躍したものに領地などの褒美を与えている。だから、もしも北のワーウルフとの戦になったとき、皆がやる気を出せるように褒美として武器の贈呈をと考えたのだ。

 ……いや、まあみんな生活かかっているので、やる気を出してもらわないと困るんだが、どうなるか分からないからな。


 魔物たちにとって、武器の報酬は中々のご褒美となるようだ。

 ……ただ、いつまで魔物同士の争いが続くか分からないからな。

 今はまだ武器で納得してくれているが、これから先どうなるやら。


 俺は斬りかかってきたワーウルフを剣で弾いた。

 彼はまだまだこのワーウルフたちの中では弱い方だった。

 だから、俺は彼に声を張り上げる。


「それぞれ、オルフェ、リビアを……そして、自分の大事な者を守る強さが必要なはずだ!」


 ワーウルフがこくりと頷き、立ち上がる。


「はい! オレたちワーウルフを救ってくださった、クレスト様の剣となりたいです!」

「……い、いや俺よりはオルフェやリビアを――」


 俺はいいから。いずれはこの村の裏方に回るつもりなんだからな……。

 ワーウルフに続くように、ゴブリン、ワーウルフたちが立ち上がり、声をあげた。


「俺もだ! もっと強くなって、あなたを守れるくらいに!」

「私もです!」

「もっと訓練を! お願いします!」


 ……意外と、熱血だな。

 俺は別に鬼教官というわけではない。

 というかむしろ、そういう教官は苦手な方だったんだがな。


「それじゃあ、次はオレの指導をお願いしようかな」


 と、外に魔物狩りへ行っていたはずのオルフェがこちらへやってきた。

 彼はどこか勝気な笑みを浮かべ、腰に差した剣を抜いた。


「オルフェ、戻ってきていたのか?」

「ああ。ここ数日、魔力変化の訓練を行い続けた。その成果を見てもらおうと思ってな」


 ……かなり、やる気に溢れているな。

 俺も剣を抜いて、一度深呼吸をする。

 

「来い!」

「……ハァ!」


 俺の一声に合わせ、オルフェが大地を蹴った。

 一瞬で俺との距離を詰めてくる。彼の属性は火だ。凄まじい加速とともに振りぬかれた一撃を、俺はかわした。

 

 ……だいぶ、火属性魔力に慣れて来たようだな。

 オルフェの体に流れる魔力を感じ取ってみる。


 まだまだ魔力のバランスが偏っている部位も多くあるが、それでも比較的全身にうまく流れているのがわかる。


 そうして、彼の動きを観察し――生まれた隙へと踏み込んだ。


「なっ!?」


 オルフェの剣を弾き飛ばし、彼に笑みを向ける。

 オルフェは一瞬驚いたような顔になったが、すぐに嬉しそうに微笑んだ。


「……さすがにまだまだ敵わない、か」

「それでも、かなり腕はあがっている。この調子で訓練していればいいんじゃないか?」

「そうか、ありがとな」


 オルフェとの戦いを終え、それから周囲を見る。

 

「やっぱり、クレストさんは強いな……」

「……本当にな。って、驚いてばかりもいられないな!」

「ああ! クレストさんの力を借りなくても戦えるくらいにならないとな!」

「クレストさん、次はオレと手合わせ願います!」


 ……まだまだ、俺は休めそうにないな。


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