第13話



 ワーウルフたちを引き連れ、俺たちはゴブリンの村へと移動する。

 ……さすがに、これだけの移動だ。

 襲い掛かってきた魔物もいるにはいたが、そのほとんどが集団に囲まれ一分と持たず倒されていた。


 そんなこんなで、村へと戻ってきた。


「な、なんだ……ワーウルフたちが戦争を仕掛けにきたのかと思いましたよ……」


 見張りをしていたゴブリンがほっとしたような息を吐いていた。

 それから、全員を村の敷地内に入れた。

 地図化術を発動し、俺は現在のゴブリンの村の様子を確認する。


 ……だいたい、この辺りかね?

 おおよそ、ゴブリン地区、ワーウルフ地区と定めた俺は、それからワーウルフたちをそちらへと連れていく。


「ワーウルフたちには、このあたりで暮らしてもらおうと思っている」

「そうか……わかった。それなら、これからオレたちは自分たちで家を作っていけばいいのか?」


 ワーウルフキングがそういってきた。

 ああ、そうか。俺の能力を伝えていなかったな。

 

「大丈夫だ、それは俺が用意していく」

「いやいや、一人だと厳しいだろ? それに、そんな雑用みたいなこと、オレたちが自分でやるさ」

「そうだな……少し見てもらえればわかるさ」

「見てもらえば? どういうことだ?」


 俺はちらとゴブリンたちに視線をやる。

 ゴブリンたちが頷いたあと、俺のほうに木材を運んできた。


「このためにも、たくさんの木材を用意してもらっていたからな」

「……木材の用意? 確かにこれがあれば家を造れるが――」


 ワーウルフキングが首を傾げながらそう言ったところで、俺はスキルを発動する。


 建築術だ。

 まずは、ワーウルフたちの王である、ワーウルフキングの家を建築する。


 ゴブリンクイーン、俺、ワーウルフキング。このような並びになるような位置に、ワーウルフキングの家を建築した。

 平屋の大きめの家だ。サイズとしてはゴブリンクイーンとほぼ同じだ。

 

 ここで、差を造らないように配慮しておいた。

 

「こんな感じだな」


 俺が額をぬぐいながらそういうと、パクパク、とワーウルフキングは口を開閉させていた。

 それは彼だけではなく、ワーウルフたちも同様だった。


「こ、こここれはなんだ!? い、家が一瞬でできた!?」

「ああ、それが俺のスキルだ。ここに来るまでに、ゴブリンの家を見てきただろ?」

「あ、ああ……ど、どれも以前見たゴブリンの家とは比べ物にならないほどの造り、だったな」

「それは俺のスキルで作り上げたものなんだ。これのおかげで、素材さえあれば家はいくらでも作れるようになった」

「な、なるほどな……そいつは素晴らしい。さすが、クレスト……我らの首領だな」


 ……だから、それは違うって。

 まあ、後でタイミングを見てその役目はゴブリンクイーンかワーウルフキングのどちらかに押し付けるけどな。

 ワーウルフキングが腕を組んだ。


「つまり、だ。オレたちが木材を持ってくれば、全員の家を用意してくれるのか? 魔力とかはかからないのか?」

「ああ、問題ないな。木材、それと少し南に下ってファングシープから毛皮も回収してくれれば、質のよいベッドも造れる。用意してもらいたいのはその辺りだな」

「了解だっ! おまえたち! さっきの話を聞いていただろ! 今日野宿をしたくなかったら、すぐに木材を集めるんだ!」


 ワーウルフキングが振り返り声を張り上げると、ワーウルフたちは拳を突き上げた。

 皆が散り散りになって村を出ていく。

 ゴブリンクイーンもゴブリンたちを見た。


「ゴブリンたちも、ワーウルフたちのお手伝いをしてあげてください。また、彼らが戻ってきたときのために、食事の準備もしてください」

「分かりました!」


 ゴブリンクイーンの指示を受け、ダクルトが全員に命令を出す。

 ……やはり、ゴブリンクイーンとワーウルフキングは上に立つ魔物としてふさわしいだろうな。


 そもそも、人間が上に立っている時点でおかしいからな。

 こうやって、少しずつ仕事を割り振り、最後には俺がいなくても問題ないようにしておこう。


 これからも、彼らを通して指示は出してもらうとして、俺は残っている木材を使って、家を建てていくことにした。


「ワーウルフキング。できるのなら宿みたいに、いくつかの部屋が入った家を造ろうと思うが……そういうのを気にする者はいるのか?」

「いや、オレたちは大丈夫だ。クレストが楽というやり方にしてくれればいい」

「そうか」


 別に楽、とかではないのだがいくつも一軒家を造るよりも、素材の消費が抑えられる。

 どちらかというと、楽になるのはワーウルフたちだな。

 俺としては別に、全員に一軒家を造ってやっても良い。……ただし、村の規模はもちろん、素材もたくさん必要になってしまうが。


 俺が家を用意していき、それにつきそうようにしてワーウルフキングとゴブリンクイーンが並ぶ。


「オレはともかく、ワーウルフたちは体つきが良いからな。少し大きめに造ってくれると助かる」

「分かった。そういえば、ワーウルフキングとワーウルフって種族的には別物になるのか?」

「ああ、そうだな。ワーウルフの中から数パーセントが、ワーウルフキングとして生まれるんだ。そっちのゴブリンのように、クイーンの個体もいるそうだが……オレは見たことがないな」

「なるほどな……ゴブリンクイーンもそんな感じなんだな」


 ゴブリンクイーンがこくりと頷いた。


「はい、そうですね。魔物の突然変異種というのは、様々な状況で生まれるものです。私たち魔物も、すべて把握しきれているわけではありません」

「……なるほどな」


 上界でも魔物については研究されていたが、大した情報はなかった。

 ……魔物たちでもわからない情報、か。

 俺の進化術では進化するとステータスに+がついていたよな?


「種族から種族に変わって進化する、というのはないのか?」

「ないと思いますね。ワーウルフキングさん、どうでしょうか?」

「オレも聞いたことはないな」


 ……なるほどな。

 進化術、というのは……その種族のなかでより特異な存在になる、ということなのかもしれない。

 俺はそんなことを考えながら、ワーウルフたちの家を用意していった。


 

 

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