第6話


 しばらくそこで、作戦を考えていた。

 万が一、ポイズンスネークを落とし穴に落とせなかったとき、どう動くのかだ。

 そうなれば普通に戦うしかない。

 槍をすて、いつものように剣で戦う。ただし、近接攻撃は基本しない。


 俺、ルフナ、ダクルトの比較的敏捷の値が高い者たちで注意を引き、敵の隙をついていくという作戦だ。


 その打ち合わせが終わったとき、ルフナの雄たけびが響いた。

 ……どうやら、見つけたようだ。

 まだポイズンスネークという存在を見たことがないが、ルフナには蛇を見つけたら連れてこいと言っている。

 そして、この辺りで蛇の魔物はポイズンスネークぐらいしかいないという話だった。


 だから、恐らく……確定だろう。

 俺たちは茂みを利用して身を潜める。

 ……駆ける音が聞こえた。それと、地面を這うような音だ。


「来たぞ、みんな準備しておいてくれ」

「ああ……っ!」


 ポイズンスネークは彼らにとっては復讐の相手でもある。皆のやる気がみなぎっているのが伝わってきた。

 ルフナが木々の隙間から姿を見せる。すぐに、落とし穴があった地点に気付いたようでそちらへと走り出す。


 その後ろから、ポイズンスネークが現れた。

 ……たしかに、体は大きいな。多少曲がっているため、全長の把握は難しいが二メートルちょっとはありそうだ。


 ルフナへとポイズンスネークが噛みつく。それをルフナは華麗にかわし、大きく跳躍する。


 ポイズンスネークはルフナへの距離を詰めようとして、地面を這い……そして……落とし穴に落ちた。


 ルフナは落とし穴があった部分を跳躍でうまくかわしていた。攻撃にあわせてかわすという敵に悟られない、見事な動きだった。


 ポイズンスネークが落ちたのに合わせ、俺はすぐに駆け出した。

 

 穴をのぞけば、壁をつたって登ろうとしていたポイズンスネークがいた。

 そこに俺は、風魔法をぶち込んで押しかえす。


「ルフナ、よくやってくれた! 全員出てこい! やるぞ!」


 見れば、二メートル付近のところまで顔があった。

 必死に登ろうとしたポイズンスネークを俺は風魔法で切り裂いていく。


 ゴブリンたちがやってきて、槍を振りぬいていく。

 一度目を噛みついて受けようとしたポイズンスネークだったが、他の槍に襲われ、体を傷つけられていく。


 ポイズンスネークの悲鳴が漏れ、どんどんその声が弱々しいものとなっていく。

 ……魔法のレベルがあがったことである程度実戦でも通用するようになってきたな。

 ゴブリンたちに危険が及ばないよう、風魔法で援護だけをしていく。


 戦闘はあっさりと終了した。動かなくなったポイズンスネークを見て、念のため何度か槍でその体をつついてから、俺は土魔法を使う。

 ポイズンスネークの死体を持ち上げるように土を発生させ、地上まで戻した。 


 ナイフで体を捌いていく。

 そこから素材を切り分け、回収していく。

 ……やはり、牙と組み合わせることで解毒ポーションが作れるようだな。


 そして俺は、早速薬師の力で解毒ポーションを作製した。


「……ど、どうだ?」


 こちらを見て来たダクルトに、笑みを返す。


「以前、ゴブリンクイーンに飲ませた解毒ポーションはEランクのものだったんだ。だが、この素材からはCランクのものが作れた。もしかしたら、治療できるかもしれない」

「本当か!? それなら、急いで戻ろう! 早く、女王様を助けたいんだ!」

「分かってる」


 ポイズンスネークの素材を手分けして回収してから、俺たちは村へと向かって走り出した。


「……おまえ、本当にゴブリンクイーンのことが好きなんだな」


 あれだけ綺麗なのだから、そう思うのも仕方ないだろう。

 しかし、ダクルトは俺の言葉に驚いたように首を振った。


「いやいや、好きとかではない。彼女はそういう存在ではないのだ。なあ、みんな」

「あ、ああ……好きとかそういうのではない。あれは……そう、ただ美しいのだ」

「そうだ……好きになるとか恐れ多いぞ……」


 ……ゴブリンたちにとって、神様みたいな存在なのかもしれないな。

 女性たちも皆こくこくと納得するように頷いている。


 そんな会話をしながらも、俺たちは急ぎ足だ。

 途中、マウンテンコングやジャイアントシザースに邪魔をされたが、それでも問題なく村へと帰還できた。

 すぐにゴブリンクイーンが眠る家へと向かい、解毒ポーションを飲ませる。


 すると……彼女はぱちりと目をあけ、体を起こした。

 触れたら折れてしまいそうな小さな体だ。


「……ここは、私は確か、ポイズンスネークとの戦いで――」

 

 驚いた様子で彼女は周囲を見て……それから俺にきづいた。


「……に、人間ですか?」


 そりゃあ、驚くか。

 ……俺からすれば、彼女も人間のような存在なので、驚かれるのは少し変な感覚だった。


 そこに、ダクルトが声を挟んだ。


「彼はクレストというのです!」

「……あ、あなた……その目の傷はもしかして――」

 

 彼女は驚いたようにこちらを見ていた。


「はい……今は名前をもらって、ダクルトと言います」

「な、名前をもらって? ……と、とにかく、助けてくれてありがとうございます」


 ぺこり、とゴブリンクイーンが微笑んできた。

 ……確かにゴブリンたちが言っていた、好きとかそういうのは恐れ多いという気持ちが少しわかった。


 尊い存在、そんなところだな。



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