第5話



 魔物進化術。

 取得してからこれまで、使い道のなかったこのスキルだったが……今は滅茶苦茶反応していた。


 残り三人の女性陣のゴブリンたちに名前をつける。

 それぞれ、果物が好きだそうで、モモリン、オレリン、グレーリンと、モモン、オレンジイ、グレープンから名前を借りたそうだ。


 女の子らしくて素敵ですね。それよりも俺はダクルトが気になっていた。

 ……なぜか、魔物進化術が彼に反応したのだ。

 鑑定を使い、ダクルトが進化可能であることが分かった。


「ダクルト、少しいいか?」

「な、なんだ? オレの名前が気に食わない……とかか?」

「いや、別にそんなことはないんだが……魔物の進化というのは知っているか?」

「……そうだな。同じ種族のモンスターでも、稀に強いものがいるのは知っているか?」

「あー、そうだな。ユニークモンスターとかだろ?」


 例えば、同じゴブリンだとしても、普通よりも明らかに強い魔物というのはいる。


「実は、ここにいるゴブリンというのは皆、一度程度は進化、あるいは生まれつきユニークモンスターに近いものなんだ。だから、知識がありこうして話ができるようになっているんだ」

「……そうなのか」


 ……確かに、彼らはユニークモンスターだといわれても納得できるだけの特殊さを持っていた。


「今、ダクルトは進化できるみたいだぞ?」

「え? そ、そうなのか? ……だ、だが進化というのは戦いの最中などで行われるものなんだ。そう簡単に自分の意思でできるわけではない」


 ……そうなのか?

 ただ、俺の眼前には今ダクルトのステータスが映り、そして進化というボタンもある。

 ……たぶん、これをタッチすれば進化可能なのではないだろうか?


「俺はおまえの進化を発生できるみたいなんだ……少し試してみても良いか?」

「……ほ、本当か!?」


 驚いたようにこちらを見るダクルト。

 それは彼だけではなく、他のゴブリンたちもだ。


「ああ、できそうだ。やってみていいか?」


 嫌と言われればそれまでだ。

 だが、ダクルトは首を縦に振った。


「頼む! 進化可能なら、ぜひともしたい! 今以上に、強くなりたい!!」


 そう言ってくれたので、俺はすぐに進化のボタンを押した。


「……どうだ?」

「……ん? いや、変化は――」


 そうダクルトが言った時だった。

 彼は胸に手を当て、それから荒々しく息を吐いた。


「くっ……! この感覚は……っ! 昔、一度経験した進化の感覚と、同じ――!」


 ダクルトの体が光を放つ。

 結構苦しそうな声を出していたのでキャンセルしてやりたい気持ちもあったが、そんなボタンは見つからない。


 やがて、ダクルトは雄たけびのような声をあげ――光とともにその声が治まった。


 ……見ると、先ほどよりも一回りだけ体が大きくなったダクルトがいた。

 顔立ちも、ゴブリンのときよりもしゅっとしている。……どこか人間に近くなった、といったところだった。


「……ダクルト、なのか?」

「ああ……そうだ」


 ダクルトが左手を強く握りしめる。

 ……それから、その拳をつきあげた。


「勝てるぞ……っ! 今のオレなら! どんな敵にだって負けやしない!」


 そう叫ぶダクルトのステータスを俺は確認した。


 ダクルト(ゴブリン)+2

 主:クレスト

 

 力174

 耐久力132

 器用100

 俊敏159

 魔力50

 賢さ140

 

 まず、名前の横が気になっていた。進化する前は、これが+1だったのだが、進化によって数値が+2に変化した。


 これが進化をした回数ということなんだろう。

 ……ステータスはかなり高くなっている。

 進化する前と比べると、彼のステータスはすべて+30程度されている。


 これが、進化なのか。

 ダクルトはすっと俺に頭を下げてきた。


「ありがとう、クレスト。今のオレたちなら、ポイズンスネークにだって負けないだろう!!」

「……そうか。それなら、早速討伐に向かうとしようか」

「ああ! みんな行くぞぉ!」

「「「「「「おおお!」」」」」

 

 ゴブリンたちは揃って拳を突き上げる。

 そして、ダクルトを先頭に、俺たちは歩きだした。



 〇



 村を出て北へと向かう。

 ポイズンスネークはこちらのほうにいるらしい。

 その途中、ジャイアントシザースやマウンテンコングとも戦っていく。


 ……ゴブリンたちに名前をつけたことで、能力が格段に上がったのはその戦闘だけで十分に分かった。

 初めてあったときは苦戦していたのに、今は楽々と倒せていた。


 俺としては楽にガチャポイントを稼げるため、悪くはなかった。

 準備運動は終わりだ。


 ゴブリンたちとともに、ポイズンスネークがいるという北を歩いていく。


「そろそろ、この辺りからポイズンスネークを見かけるはずだ。気を引き締めるんだ」


 ダクルトの言葉に、こくりと皆が頷く。


「一つ確認したい。……ゴブリンクイーンが毒になったときの状況を覚えているのなら、教えてほしい。……どんな攻撃を受けたかわかるか?」

「毒攻撃はたぶん、噛みつかれたときだ。ゴブリンクイーン様が一度噛みつかれてな。それから、顔色が悪くなってな……その場は何とか逃げたのだが、村についたところで今みたいな寝たきりになってしまったんだ……」

「そうか……」


 それならば、噛みつかれないように立ち回る必要があるな。


「相手はかなり強い魔物、という話だったな。こちらの戦力があがったとはいえ、万全の準備を整えて挑もう」

「……ああ、わかっている」 

「この辺りで罠を作り、ポイズンスネークをおびき寄せて戦うというのはどうだ?」


 俺の提案に、ダクルトがこくりと頷いた。


「だが、罠といってもどうするんだ? 落とし穴でも掘るのか? だとしても時間がかかるが――」

「落とし穴……か。それならすぐに作れるな」


 俺は土魔法を使って見せる。

 大きめの穴を作ってみせると、ゴブリンたちが目を見開いた。


「こ、これほどの穴を一瞬で!?」

「ああ……サイズはこのくらいでいいのか?」

「……もう少し深くしたほうがいいかもしれない。結構大きいからな」


 ……マジか。今でも2メートルほどはあるんだが。

 3メートルは入れる穴を作ってから、その上を土魔法で固めておいた。


「これで、落とし穴は準備完了だな。……ルフナ、ポイズンスネークを探してこっちまで誘導してくれるか?」

「ガルル!」


 起き上がったルフナの顎下を撫でてから、ルフナを派遣する。


「俺たちはここでポイズンスネークが来るのを待つぞ」

「……あ、ああ。しかし、この落とし穴に落とした後はどうする? オレたちの持っている武器では届かないぞ?」

「槍を使おう。……ちょうど、アイアン魔鉱石もあるしな」


 だからこそ、ここに罠を作ることにしたのだ。

 俺は落ちていたアイアン魔鉱石に鍛冶を使い、槍を作り上げる。


「どうだ? 使えそうか?」

「さすがに、槍の心得は持ってないが……穴の上からつつくくらいなら、問題ないな」


 ダクルトの言葉に、他のゴブリンたちも頷く。

 ……準備はこのくらいか。

 あとは、ルフナを待つだけだな。


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