第24話
ウルフがいた。
……ウルフの能力は分からないが、ゴブリンに戦わせるのは危険だろう。
俺の体感では両者はほぼ互角。若干速い分、ウルフのほうが有利だとも思っている。
しかしゴブリンはやる気満々のようだ。早く命令をくれといった様子でこちらを見ている。
……正直助かったな。賢さがあがっていなければ、突っ込んでいたかもしれない。
戦闘を始める前に賢さをあげる。それを徹底したほうがよさそうだ。
というか、ホブ・ゴブリンを仲間にしたほうがまだ賢さは高そうだが……。
能天気にこちらを見ているゴブリンに、小さく息を吐いた。
とりあえずは、いいか。たぶん、進化先の一つにあるだろうしな。
進化も試したいので、上位種ではなく下位種のものから育てたかったというのもある。
「ゴブリンはここで待機だ」
「ゴブ!?」
いまいち何が言いたいのかわからないゴブリンだが、今のははっきりと分かった。
なんで!? と言ったのだろう。
「今回の戦闘はウルフを仲間にするために行うんだ。だから、俺一人のほうがやりやすい。……ゴブリンは周囲の警戒をしていてくれ。何かあったら教えてくれ」
「ゴブ!」
……まあ俺は感知術持っているから、集団に襲われるようなことは決してない。
ただ、ゴブリンはやる気を出してくれたようだ。こちらが引くくらい、やる気に満ちていた。
俺はウルフへと近づく。堂々と向かったからか、ウルフも気づいたようだ。
仲間にしたいのなら、奇襲ではなく正々堂々と戦ったほうがいいと思った。
……それで魔物使役スキルの効果が上がるかは不明だが、ゲン担ぎみたいなものだ。
ウルフは唸りながらこちらを見てきた。
お互い、にらみ合う。
先に動いたのは――ゴブリンだ。
「ゴブ!」
ゴブリンが突然声をあげた。俺とウルフは驚いてそちらを見る。
魔物が接近しているのか!? 嘘だろ! 感知術に魔物の反応はない!
どういうことだ! 魔物にしか分からない感知術みたいなものがあるのか!?
レベルアップによって広がった感知術で周囲をくまなく探す。
だが、何も見つからない。
「ゴブ!」
ゴブリンがびしっとある地点を指さしていた。
そこには……花が生えていた。
まあ、綺麗……素敵! じゃねぇよ!
何かあったら報告してくれを拡大解釈しやがった。
俺が呆れながらウルフとの戦闘を再開する。
……結局、ウルフは仲間になってくれなかった。こんなおバカな奴の仲間入りはしたくないと思ったのかもしれない。
……妥当な判断だな。俺だってそうするな。
小さくため息をついてから、俺はゴブリンを睨みつける。
「ゴブリン、何かあったらは、危険があったらだ。魔物が接近してくるとか、そういうことだ。分かったな?」
「ゴブ!」
返事だけはいいんだから……。
まあ、頭で理解しているかはわからないが、きちんと返事をしてくれているからまだいいか。
俺はゴブリンとともにウルフを探していく。
ウルフが仲間になったのは――3体目を倒したところだった。
「がるる」
魔物使役スキルを使うと、甘えたような声でウルフが鳴いた。
敵ではないと示すように、ウルフは腹を見せてくる。
近づいて頭を撫でるとこすりつけてきた。
可愛い……。ゴブリンと違い、ウルフには犬に似たかわいらしさがあった。
「お手」
「がるっ」
「お座り」
「がるるっ」
おまけに、命令もちゃんと聞いてくれる。
俺はウルフのステータスを確認する。
名無し(ウルフ)
主:クレスト
力18
耐久力8
器用10
俊敏21
魔力5
賢さ20
……おお、やはりウルフは優秀だな。
別に比べるつもりはないが、試しにゴブリンのステータスも見ておくか。
名無し(ゴブリン)
主:クレスト
力19
耐久力6
器用5
俊敏14
魔力3
賢さ12
ウルフ狩りをするため一緒に歩いていてこれだからな。
二体を眺めていると、両者が何やら話して言うようだった。
「ゴブ」
「がるる」
「ゴブ!」
……まったくもって両者の会話は分からなかったが、それでも両者通じてはいるようだった。
ウルフが俺の隣に並び、ゴブリンがその背中に乗る。
ゴブリンライダーの完成だ。
……あまり強そうに見えないのは、騎手が原因だろうな。
さっきお互いに話していたのは、もしかしたらその打ち合わせでもしていたのかもしれない。
ウルフが走り出すと、乗っていたゴブリンが背中から落ちた。乗馬だったら大問題の落ち方をしたが、ゴブリンは元気そうだった。
再び乗って、ウルフとゴブリンが遊びだす。
……まあ、ウルフのステータス強化に役立ちそうだから別にいいがな。
少し試したかったことがあるので、俺は自分の召喚士を調べていた。
契約している魔物を任意の場所に召喚できるんだったよな。
俺が確認してみると、どうやら今のレベルなら一体まで召喚できるようだ。
任意の場所は……俺の視界が届く範囲のようだ。
試してみるか。
俺は召喚を発動する。指定する契約済み魔物を選択する。
そして、目の前を指定して召喚した。
「サモン、ゴブリン」
召喚士が呼び出す場合に必要な言葉を言うと、ゴブリンが俺の目の前に現れた。
急に軽くなったからかウルフが驚いたように背中を見ている。
「ゴブ!」
……なるほどな。視界の届く範囲なら、魔物を使って奇襲ができるかもしれない。
ただまあ、今の魔物たちじゃ奇襲するには弱すぎる。
……かといって、ミツベアー級の魔物相手に、加減して戦うのは正直言って厳しい。
格闘術、剣の腹で殴って弱らせるしかないからな。
一度、拠点に戻ろうか。
「ウルフ、ゴブリン。俺が暮らしている拠点を案内する。ついてきてくれ」
「ゴブ!」
「がる!」
二体は素直に俺についてくる。ゴブリンは歩いているとふらふらーとどこかに行きそうになるが、ウルフがそれを制する。
……すでにウルフのほうが色々な面で優秀だな。
けどまあ、手のかかる子も嫌いじゃない。
……俺は自然と口元が緩んでしまった。
……これまでずっと一人だったからな。
今はなんだろう。ガチャを回しているとき以上に楽しいかもしれない。
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