第15話
砂浜の終わりが見えてきた。
地図を見る。ここから南西へと向かうと、俺が拠点にしている大木まで戻れるようだ。ちょうど、その途中はまだ地図では空白だ。
今から戻るか……?
太陽は高く上ったところ。お昼くらいだ。
陽が沈むまでまだまだ時間があるので、俺はもう少し北上してから、ぐるりと地図を埋めようと思った。
さらに北へと進んだときだった。
ずしん、という地響きがした。
……すぐに木の陰に身を隠し、様子をうかがう。
そいつは2メートルほどはあるクマだった。鑑定を使うと、ミツベアーという魔物だと分かった。
ミツベアー……。どれくらいの強さになるのだろうか。
今の俺が戦えるだろうか。とりあえず、付与魔法で獲得した斬撃術がある。
ここまで来る途中に、サハギン相手に使用したが、その威力は中々だった。
特に魔物の足を狙うことで、相手の機動力を奪えることが分かった。
……無理だったら、逃げるか。
土魔法なども駆使すれば、逃走も難しくはないだろう。
新しい魔物は積極的に狩っていきたい。
ミツベアーがこちらに背中を向けた瞬間――俺は剣に魔力を込めた。
木の陰から現れると同時、剣を振りぬいた。ミツベアーの右足を狙って斬撃が飛ぶ。
ミツベアーも気づいたようだ。振り返ったその瞬間、ミツベアーの足に斬撃が当たる。
血が噴き出す。ミツベアーは怒ったようで、咆哮をあげた。
肌を殴りつけるほどの音が襲い掛かる。怯んではいられない。戦うと決めた以上、覚悟を決めないとな。
俺は後退しながら、斬撃を放っていく。狙うはミツベアーの右足だ。
ミツベアーはそれをものともせず、迫ってくる。
……くそ、思った以上に強いな。
実力的には向こうのほうが上か?
斬撃が思ったよりも通らないことに、俺は驚く。木々を利用し、うまく距離をあける。
五度目の斬撃を当てた瞬間、ミツベアーが膝をついた。
……よしっ! 狙い通りだ。俺がさらに距離をあけながら、さらに魔力を込めて剣を振り下ろす。
その時だった。ミツベアーが近くの木を掴んだ。
「おいおい、マジかよ!」
「ガァ!」
ミツベアーが木を根元から折る。……大人の胴程はある木だぞ!?
ミツベアーはそれを構え、こちらへと放り投げてきた。まるで槍の投擲だ。
まっすぐに飛んできたそれに俺は土魔法を合わせる。
ミツベアーの放り投げてきた木は土の壁にぶつかる。
防いだのは一瞬。そもそも、防ぎきれるとは思っていなかった。
あくまで俺が回避するための時間を稼いだだけだ。横に跳ぶが、回避しきれずわずかに胴に当たった。
いってぇ……転がったのは一瞬、すぐに立ち上がり俺は斬撃を放ち、走る。
……さすがに、やべぇな!
俺は痛みを抑えるようにポーションを飲みながら後退する。
だが、ミツベアーも、弱っている。
初めに比べ、こちらを追いかける速度が遅くなっている。
……近接でかっこよく決めたかったが、これは厳しいな。
こういう相手と戦う場合、もっと強力なスキルか毒術とかの搦め手が欲しいかもしれない……。
距離をあけ、斬撃を放つ。それの繰り返しを行ったことで、ミツベアーはとうとう動けなくなり、その場で膝をついた。
……よし、あとは仕留めるだけだ。
俺は距離を離したまま、斬撃で攻撃し続け、ミツベアーを仕留めた。
ずるいとは思わないでくれよ。
倒れたミツベアーに近づき、その体を解体用ナイフで死体を切り分けていく。
ミツベアーの爪とアイアン魔鉱石と組み合わせることで、蜜熊剣が作れるようだ。
……まだすぐに作るつもりはないが、とりあえず素材は確保しておかないとな。
さすがにこの場にいつまでもいるつもりはない。……この辺りには恐らく、ミツベアーが生息しているからな。
今の俺では連戦は厳しい。肉を必要な分だけ確保して、撤収することにした。
ポーションを消費したので、近くで発見した薬草を拾い、新しく用意しておく。
これで、次の戦いの準備も大丈夫だな。地図を確認しながら、進んでいく。
そして、ガチャ画面を開き、獲得したポイントを確認する。
入ったポイントは……200かぁ。あの強さで200……それとも魔物から得られるポイントの上限が200なのだろうか?
だとしたら悲しいなんてものじゃない。
無理に強い魔物と戦わないで、戦える範囲の魔物を見つけ、強化していったほうが効率は良いのかもしれない。
「……はぁ、くっそ。本当に強かったな……」
最近、独り言が増えてきたと思う。
周りに誰もいない中で、話し方を忘れないためにという部分もあるが、やはり寂しいからだな。
それを少しでも誤魔化すための独り言だ。
しばらく森を移動していく。……ミツベアーはほとんど見かけなかったが、まだ二体ほどいた。
……さすがに戦うほどの気力はなかったので、息をひそめ隠れた。
そうしながら、ひとまず東からぐるりと北側までの地図を埋めることができた。
……ミツベアーを目撃したあたりに関しては地図にメモを残しておいた。
ミツベアーが確認できた範囲はそれほど広くはない。
もしかしたら、さらに北側の森に本来はいる魔物なのかもしれない。
だとしたら、厄介なんてものじゃないな。
ま、ミツベアーに関しては後で対策を考えるとして……今は腹を満たさないとな。
俺は持ち帰ったミツベアーの肉を早速食べるため、たき火の準備をする。
火を用意し、いつものように肉を焼いていく。
……ああ、もったいないくらい肉汁がこぼれている。
早く、早く食べたい……っ。
まずは塩をかけず、そのまま味わうことにした。
なんだこれは!? うますぎる!
甘くてとろけるお肉だ! これまでに食べた肉とはまた違ったうまみがある!
次は塩を軽くつけて食べる……ああ、これもうまい。
肉汁と塩が混ざり、感動的な味となっている。
……ミツベアーの肉は病みつきになるくらいのうまさだな。
これを安定して狩れるようになるためにも、今日のガチャには期待だな。
サハギンとポイズンビーを倒したので、今日のガチャ分のポイントはあった。
……今日は4月24日。残り一週間を切った。
それまでに、ピックアップスキルはレベル3まであげたいな。
そんなことを考えながら、俺はガチャ画面を開いた。
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