第15話 真実(2)

「おお、どうした、緑川」


「どうした、じゃねーだろ! 何やってるんだよ加藤!」


 緑川くんは加藤から私を引き離す。


「大丈夫?」


 私の目から熱いものが流れてきた。


 ――涙だ、と気づくのに数秒かかった。


「加藤、お前、何が楽しくてまたこんなことしてるんだよ? 茜谷さん泣いてる」


 緑川くんは加藤のほうを見て動かない。


 どんな顔をしているのか、わからない。


「俺は今回こそお前を許さないからな」


「あ、そう」


 加藤は私のほうを見る。


 私はビクッした。


「瑠香、遊びは終わりだ。残念だなあ。まあでもあきらめないよ」


 加藤はクククと不気味な笑いを残して去っていった。


 その途端、私は崩れ落ちる。


「茜谷さん、大丈夫!?」


「あ、りがとう、緑川くん」


 自分の声が震えているのがわかる。


「緑川くんのおかげで助かった……」


「もう2人きりになろうとしないこと、いいね」


 私は小さく頷く。


 でも緑川くんは険しい顔をしたままだ。


 眉間にしわが寄っている。


「どうしたの」


 途端、緑川くんは優しい顔になり目を合わせた。


「いいや、何でもない。授業遅れるよ、歩ける?」


 右手を差し出される。


 私は遠慮がちにその手を受けとる。


 緑川くんの手は温かくて。


 やっと安心できたんだ。


 手はすぐに離れていったけど。


「茜谷さんはさ、なんでこんなことになったのか、わかる?」


 優しい声。いやだったら答えなくていいよ、とも言っているような気がする。


 私は首を横に振る。


「私、よくわからないんだ。急に加藤が私と付き合っているって、伊月とりんの前で言ってきて」


「……放送部のカップル?」


 カップル、という言葉に私はどぎまぎしてしまってぎこちなく頷いた。


 カップル、なんだよね。


 堂々とキスしてたもん。


 その時私は加藤に無理やりキスされたことを思い出した。


 ――吐き気がする。気持ち悪い。


 ブンブンと頭を振っていやな考えを吹き飛ばす。考えない、考えない。


「そっか」


 そうしたら緑川くんはなんだか難しい顔をして考えこんじゃった。


 沈黙が続いて私はどうしよう、と思いながら歩き続ける。


「あのさ、茜谷さん」


「なに?」


 もうすぐで教室だ。


「俺、茜谷さんのことずっと見てるからさ、何かあったら言って。また加藤に近づかれたら俺がどうにかするし。じゃあまた」


「うん……」


 どうしよう、胸がドキドキする。


 緑川くんはただ私のことが心配で見てくれるだけなのに。


「ねえ瑠香ちゃん」


 落ち着きのあるその声に私は体をこわばらせる。


「りん……」


「今日こそちゃんと話したいからさ、昼休み、放送部室に来れる?」


 みんなに聞こえない声で「もちろん伊月は呼ばないから」とささやく。


 私は覚悟を決めて頷いた。

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