第14話 真実(1)

「おはよ、瑠香」


「なに、加藤」


「ひどいなあ、まだ下の名前で呼んでくれないんだ」


 私は小さくため息をつくと先を歩きだす。


「僕のことは隼人って呼んでよ」


「隼人」


「おお、可愛いなあ、瑠香は。ツンデレ?」


 加藤をにらむ。


 隼人なんて死んでも呼びたくないけれど。


 だけど今は。


「放送部室に行ってもいい?」


 加藤は口角を上げる。


「いいよ」


 その笑みがまた不気味で私は逃げ出したくなったけど。


 今は耐えなくちゃいけないんだ。


 ◇◆◇


「隼人は何が目的でこんなことをやっているの」


「そりゃ、瑠香が可愛いからだよ」


 私はこぶしを壁に打ち付ける。


「茶化さないで!」


「へえ。可愛いお姫様だ」


 私は顔が熱くなるのを感じる。


「隼人は私のことが好きだなんて1ミリも思ってない、そうでしょ」


 加藤は答えない。


「それでもどうにかして付き合おうとしているってことは何か企んでいるんでしょ」


 加藤はポーカーフェースを崩さない。


「あたってるけど、あたってない」


 加藤は私の手をグイっと引くと抱きしめる。


「瑠香のことをかわいいと思っているのはほんと」


 加藤は私の髪に触れる。


 私は早く加藤から離れたいのに離れられない。


 からだが、動かない。どうして。


 加藤の口が私の耳元に近づく。


「髪、きれいだね」


 ――離れて、気持ち悪い、気持ち悪い――ッ


「この部屋に瑠香から呼んだってことはこういう展開になるのも予想してたよね、もしかして、期待した? 誘ってるの?」


 私、馬鹿だ。人目につかないところなら加藤は本音を言ってくれるかもしれないなんて。


 そんなわけないのに。


 こんな展開になって、逃げ場がなくなるのは私なのに。


「今瑠香のからだが動かないのはなんでだと思う? 俺のことが好きだから」


 ちがう。


「好きで俺にくっついていたいから、ぬくもりを感じていたいから」


 ちがう、ちがう、ちがう。


「ねえ、次は何をしてほしい? 何でも言うこと聞くよ」


「茜谷さん!」


 放送部室のドアがガラッと開く。


「加藤、茜谷あかねやさんから離れろ」

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