第12話 恐怖(2)

「瑠香、一緒に帰ろー!」


 帰りの会の後、はじっこの席の私はすぐ教室から飛び出したのに……。


 気づいたらあいつがここにいる。


「なんですか、加藤さん」


 加藤さん――隼人さんはぎょっとしたように私を見る。


 耳に唇を近づけて、ささやく。


「ちょっと、俺のことは隼人って呼んでって言ったでしょ」


 後ろからまた悲鳴がっっっ


 私は思わず加藤さんのことを突き飛ばした。


「いい加減にしてください!」


 加藤さんは目を見開く。


 笑ってはいないんだけど。


 なぜかその顔は笑っているように見えて、こわい。


 へえ、っておもしろがっているような。 


「私、加藤さんのこと好きじゃないし、っていうか嫌いだし、こんないじめられる覚えないです」


 あたりがざわつき始める。


 その時私は加藤さんに抱きしめられた。


 強く抱きしめられて、離れられないっ。


「やめて――ッ」


 唇がふさがれた。




 ――唇で。




 やめて、気持ち悪い、やめて――。


 加藤さんは静かに離れて耳にささやく。


「そんなことするからだよ」


 私は恐怖で声が出ない。


 足が震えている。


 加藤さんは私の頭をやさしくなでる。


 そして、その人のものだとは思えないような声で、まるで周りの人に聞かせるように言った。


「ごめんね、僕、瑠香のこと、わかってなかった。これからはもっと優しくする。本当にごめんね」




「瑠香、大好きだよ」




 甘い声で彼はそう言った。


 私はただ頷くことしかできなかった。


 震えていただけかもしれないけれど。


 手を引かれて、一緒に帰ったけど、その時の記憶はもうない。

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