(16)〜クレアと、母娘のそして〜
それから。
クレアは今まで貯めていたお金やカイヤの使っていた馬や幾つかの道具を売って得たお金を使って、
しかし、いくら慎ましい暮らしをしていたとはいっても、お金はいつか底を尽きる。
だからクレアはわが子がある程度大きくなり、自身の魔力を自分の意思で扱えるようになった頃、今まではカイヤを通してギルドに納めていた薬を作り、街の薬屋に売りに行くようになった。
街中の薬屋や雑貨屋を何軒も何軒も周り、何度も何度も頼み込んで、ようやくある薬屋の片隅にクレアの薬が並ぶようになった。
―――この時知り合ったとある薬屋の夫婦は、初めこそ魔女であるクレアにある種の恐れを抱いていたが、そのひととなりに触れ、やがて彼女たちの良き助けになるようになったんだ。―――
クレアはわが子に対して多くの時間を母親としてでなく、魔女や魔術の『師』として接した。
ときに優しく、ときに厳しく、彼女が自分の持つ術や技を教えるのにはある理由があった。
それはわが子を一人前の魔女にする為。
そして、『浄化の魔女』と言う名で呼ばれるだろうあの子の
いつ自分が死んでも大丈夫なようにする為だった。
師として振る舞うようになった彼女には、あの日の感情、哀しみが一切感じられなかった。
しかし夜、人々が寝静まる頃になると、いつ
『あなたの行く道に幸せがありますように……』
カイヤとの別れの終わった夜に書いたあの魔法陣は、その後何度か改良を重ねたが、術者の身の危険性を無くすことはとうとうできなかった。
だから、カイヤからの贈り物で、思い出の品である仕掛け鏡台に感情や思い出と共にしまった。
いつか何かの役に立てば、そう思って。
そこからまた月日は流れ。
クレアがわが子に教えるべき知識をほぼ手帖に書き記したと思うようになった頃。
街を流行り病が襲った。
クレアはわが子にありったけの薬を作るように指示を出し、自分は一人街を駆け回った。
カイヤの守った街を守ろうと、そのことを胸に奔走したんだ。
彼女の尽力の結果、他の街で住人の半数以上が死んでいったといわれるこの病を抑えしのんだのだった。
人知れず功労者となったクレアだったが、彼女はそれまでの無理がたたったのか病が下火になり始めたそのころに一休みしようと自宅に戻ったところで気を失い倒れた。
彼女はその後数日、ひどい高熱に襲われ日に日に体力を削られ、弱り切った彼女には薬が効かなかった。
彼女が自身の生を手放す少し前。
ほんの少しの間、彼女の容体が安定した。
後から思うと、それはまるで最後の別れの機会であったかのようだったんだ。
それまで彼女を必死で看病していたわが子に向かって、こう言った。
「私はね、暗闇だったの。それは星もない、月もない、そんな夜のような暗闇。でも、カイヤが、あなたの父さんが
彼女は最期の最期、その一瞬まで穏やかで、誇らしげだった。
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