(14)〜クレアの慟哭〜

 重たい雲が空を覆いつくし、朝から冷たい雨が降ってきていたその日。


 カイヤの葬儀は街外れの小さな教会でひっそりと行われた。


 二人が幸せが永久に続くことをを望み、願い、誓いあったその場所で。




 しかしあの幸せだったころとは違い、この日教会にいたのは喪服に身を包み、真っ黒なベールを被っていたクレアだった。


 そしてもう一つ、あの時と違っているのは、数人の黒い服を着た参列者がいること。


 それはカイヤの所属していたギルドの仲間。




 カイヤの葬儀が行われていくその間、彼女はわが子を教会の修道女に預けていた。




 哀しいはずなのに辛いはずなのに、神への祈りを聞いても他者からかけられる悔やみの言葉を聞いても、彼女の目からは一適の涙も出てはこなかった。




 その後、カイヤは街の共同墓地に葬られた。










 カイヤの影がなくなった家の中に二人が帰ってきたのはもう日も落ちきってしまったころだった。




 クレアは慣れないことに眠ってしまったわが子をいつものようにベッドに寝かせ、彼女はもう主が自分一人になってしまった真っ暗な部屋に入った。


 途端、胸のうちから何か仄暗いものがどっと波のように押し寄せ、ぽっかりと空いたところに染み込んでいく。




「あっ、ああ……あああああぁぁぁ!!」




 喪服に皺が寄るのも気に留めず胸元をきつく握りしめて息の限り慟哭した。


 それはもう言葉の形にはならなかった。




 何かにとらわれたように部屋の端にある机に近づき、その上にあるもの、紙の束やペン立て、インクの瓶を自身の感情に任せて払い飛ばした。




 ひらひらと部屋を紙がいくつも舞っていた。


 けたたましい音を立てて、バラバラと床に木でできたペンの散らばり重たいガラスの瓶が落下した。




 彼女は机に手をついてズルズルと膝から崩れ落ち、そのまま手近に転がっていたペンをひっつかみ、舞い落ちてきた紙がぐしゃりとつぶれてしまっているのもいとわずに魔法陣を書きなぐった。




 何枚も何枚も……。








 そして、床の上にバツのつけられた魔法陣が書いた紙が散らばったその時。




(できた……)


 クレアの手元、紙の上にはある一つの陣が表れた。




 それは陣の耐えうるギリギリまで浄化と封じの能力を高めたもの。

 強力な魔法を使うこの陣の代償は

 陣を発動したその時何が起こるかは実際に使ってみないと一切分からなかった。




(それでも…いい。あいつを…カイヤの仇を、取れるのなら!)

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