(10)〜カイヤの願い、クレアの思い。〜
「だとしたら、クレアはもう人を呪うのをやめるべきだ。君は優しい人だ。だから人を呪った時、君は辛そうなんだ。俺は君にそんな顔をして欲しくない」
クレアに、カイヤから放たれたこの言葉が重く深くそして、鋭く突き刺さった。
『否定された。』
今まで生きてきた中で、最も一生懸命にやってきたことが。
そして、その瞬間。
今まで誤魔化し続けた傷だらけの心にはっきりと気づかざるを得なくなってしまった。
「あんたに私の何がわかるっていうのよ!」
チカッと目の奥に火花が散って、いつの間にかクレアはカイヤに向かって叫んでいた。
カイヤが苦しそうに息を呑むのが見えた。
が、もうクレアの感情は止まらない。いや、止まれない。
「私だって……私だって!出来ることならこんな
「……クレア」
クレア自身、自分でも、一体どこに溜め込んでいたのだろうと不思議に思うほどの声と苦痛、苛立ちが堰を切ったかの如く溢れて溢れて、溢れて。
きっとカイヤも私を嫌いになってしまう。
カイヤも私の前から居なくなる。
なら………それならもう、いいや。
この際だ、全てぶちまけてしまおう。
苦しみも、息苦しさも、辛さも、哀しみも、虚しさも、全部。
「何よっ……何が『もう人を呪うのはやめるべきだ』よ!もう放っておいてよ!魔法は並程度の才しかない、魔力だって他より少ない私が『魔女』と乗るためには、もうこうするしかないの。仕方が無いの、私が呪いでどうなろうが、全部ぜんぶ、みんな私のせいなの!自業自得なの!あなたには一切、なんの関係もなっ……!!」
『関係無い』
そう突き放すように、クレアは悲痛に誰も知らない自身の胸の内を、今まで隠してきた言葉を、洗いざらい全て吐き捨てる。
もうこのまま、すぐ隣にある暗闇に潜むこの川に飛び込んで死んでしまおうか。
そんなことさえ頭をよぎって、橋の欄干に近づこうとした次の瞬間、クレアは思わず息を飲んだ。
カイヤがクレアの腕を引き、抱きすくめたのだ。
「ちょっ、はなっ……」
「……関係無くは、無い」
「……っ!」
低くは放たれた声に、離れようとカイヤの胸を押してもがいていたクレアの動きがピタリと止まる。
カイヤがゆっくり息を吸う。
その動きが、直に伝わってきてクレアの頭は急に怒りを忘れて混乱し始める。
心臓が頬が熱くなり、耳元まで心臓が上がってきたかのように自分の鼓動がはっきりと聞こえてきてしまう。
カイヤはクレアに向け、そっと言葉を続けた。
「もう一度言うぞ。俺はお前が、クレアが、苦しんでいるのを見るのが嫌なんだ。だから、関係なくは無い」
「なん、で……」
なんで、どうしてそこまで……。
口から僅かに絞り出した声は掠れていた。
「そんなの決まってる」
混乱真っ只中のクレアとは打って変わって、カイヤははっきり堂々として言った。
「俺はさ。はじめて会ったあの日から、君に惚れていたんだ。」
「えっ…」
カイヤは少し腕の力を緩めるとクレアの肩を持って、真っ正面から彼女を見つめた。
「好きだ、クレア」
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