(8)~クレアはカイヤと広場を巡る~
「凄い…こんなに賑っているものなのね」
「1番人が多くなる日だからな…でもここはまだ広場の入り口だし驚くのはまだ早いと思うぞ?」
困惑顔のクレアにカイヤがおかしそうに笑いかける。
「だからさ、ほら」
そう言うと、カイヤはクレアの手を取った。
「え?」
「これだけ人が多いとはぐれるかもしれないからさ」
「いや、子供じゃないんだから…」
「俺が繋ぎたいって言ったら?」
「…わかった。」
カイヤはニコニコとそれはそれは嬉しそうに、クレアは顔を真っ赤にして少し俯きがちにでも手はしっかりとカイヤの手を握り返して、二人は人々で賑わう広場に入って行った。
二人は様々な店を巡って行った。
串焼きの屋台に立寄り、カイヤが買ってきた肉の刺さった串の一本を手渡されたクレアはじっと手元のそれを見つめた。
ーまるでこれからそれとの戦いに挑むかのように。ー
「ねえ、カイヤ。屋台で買って食べるなんて初めてなんだけど…これってどうやって食べればいいの?」
「普通にこう、齧ればいいと思うよ」
そう言うと、カイヤは自分の分の肉の串を食べてみせた。
それを見て、クレアは「なるほど」と自分の分の串に思いっきり齧り付いたんだ。
ー君はどうなるかわかるかな?ほんのついさっきまで炭火でじっくり焼かれていたものにクレアは思いっきり齧り付いてしまったんだ。ー
「あ、そんなに頬張ったら…」
「んっ!?あっつい!」
クレアの口の中いっぱいに柔らかい肉から溢れ出た熱々の肉汁が洪水のように押し寄せた。
「ああ、やっぱりか。はい、お水お水」
クレアはカイヤから、先に買って来ていた水の入ったカップを受け取ると、ゴクゴクと凄まじい勢いで中身を飲みこみ、口の中を冷ました。
そして、カップの中に入っていたお水を全て飲み干すと、少し涙目になりながら、
「そう言うことは!もっと早く言ってよ‼︎」
そう少し睨むようにして訴えた。
その後、しばらくの間むくれていたクレアを、甘いもので宥めた後、二人は珍しい本を取り扱っている古本屋に向かって行った。
「ねえクレア、君確か、結構本持ってた…よね?」
クレアに託された購入予定の本を山の様に抱えながら、カイヤは目を輝かせて古本を吟味しているクレアに恐る恐る尋ねた。
「ええ、まあね?」
本に視線を落としたまま、クレアはそうぼんやりと答えた。
「また買うのはいいけどさ。この量、ほんとに本棚に入りきる?」
彼の腕にズッシリとのしかかってくるその重量は、おおよそ紙の束のそれではない、下手をすればカイヤの持つ剣の方が軽かったりするのではないだろうか、そう思ってしまうほどに。
「入らなかったら、その時はその時よ。…あ、この本も面白いわね」
「え、まだ増やすの?」
そんな会話を繰り広げ、その場で買った大量のものの配達の依頼を終えた頃には、もうすっかり日が暮れていたんだ。
その時間になると、昼には出ていなかったお酒を出す灯りを灯した屋台が目を覚ましはじめていた。
朝から広場を巡っていた二人は「そろそろ帰ろうか」と、昼とは別の明るさと賑やかさを感じる広場をあとにした。
二人は楽しくたあいない話をしながら帰っていたんだけど、帰路の途中にある、小さな橋の上。
そこでふとカイヤが立ち止まったんだ。
「カイヤ?」
ついさっきまで隣にいたはずの、彼の姿が一瞬見えなくなりかけて、クレアは不思議そうにそう彼の名を読んだ。
「クレア、ちょっとここで話していかないか?」
カイヤはいつものように笑ってはいたが、その中に少し真剣な色を含んでいたんだ。
「え、ええ。」
その表情はクレアにピリリと緊張感を与えた。
カイヤは橋の欄干にほんの少しもたれかかった。
クレアもその隣で欄干に手をかけ、橋の下の暗闇を流れる小さな川の音を聞いていた。
ここには二人以外、人気は無かった。
カイヤがスッと息を吸って一瞬、そして意を決したように口を開いた。
「なあ、クレア。はじめて会った日から一度聞いてみたかったことがあるんだ。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます