(2)〜魔女の店にて〜

 店とされる埃っぽい部屋は光が届かず、奥まで見通すことが出来ない程に薄暗かった。


 カイヤは雇い主である貴族を何人かの同じように護衛として雇われた者たちと協力をしながら守りつつ、ゆっくりとその中へ足を踏み入れていった。




 突然、パタンと小さく音がして、先程まで開けたままだったはずの後方の扉が独りでに締まった。




「…いらっしゃいませ。その場でご要件を。」




 部屋の奥、暗闇の中から店の主なのだろう、客を出迎える挨拶文を淡々と紡ぐ、若い女性の声が聞こえてきた。


 部屋に入ったものは誰もが「魔女」と言うくらいだから、てっきり歳のとった老婆のしわがれた声が聞こえてくる事を想像していた。




「先日、使いを出した者だ。『呪い』の術を依頼したい。」




 はっと、いち早く我に返った貴族が大声で言うと、ふっと、部屋に置いてあったのだろう、蝋燭のいくつかに火が灯り、ぼんやりと人の影を映し出した。


 薄暗い部屋のせいで、カイヤはきちんと姿を見る事は出来なかったが、その背格好は若い女性のそれだった。






「……人が多いですね。人数、減らしてください」




 影から憮然とした態度の声が貴族に言った。




「なんだと?」




 貴族は眉をひそめて、低く唸るような声で聞き返した。




「では、お帰りください。」




 相手の身分や権力をものともしない様子で、ヒラリと言葉が帰ってくる。


 貴族はしばらく僅かに怒気を露わにしながら、考えていたがやがて、




「……何人がいいんだね?」




 とつとつと声の主に聞き返した。




「そうですね……あなたともう1人。あとの方は外でお待ちください」




 貴族は後ろを振り返ると、




「君は残ってくれたまえ、他は外で待機するように」




 そう言った。




 ###






 再び、パタンと扉が閉まった。


 部屋に残ったのは、貴族とその一歩後ろに控えているカイヤ、そして、呪いを行う魔女あの娘のたった三人だった。




「ひとまず、椅子を用意しましょう」




 そういうと、彼女は指で軽く宙をなぞる。


 すると、一気に部屋中のろうそくに火が灯り、部屋の中が見渡せるほど明るくなったかと思うと、部屋の奥に掛かっているカーテンの向こうから、ゴトゴトと音を立てて、ローテーブルやらカウチやらが歩き、ティーセットが宙に浮かび、カイヤ達のいる部屋へとやってくる。




 まるで道具たちが生きていて、彼女の指示に従って仕えているかのようなそんな光景に驚き、目を奪われて呆然としていると、




「そちらにお掛けください。改めて依頼の内容を聞きましょう」




 カイヤが声のした方に顔を向けると、いつの間にか、目の前のローテーブルの向かいに、頭の先から足先までの真っ黒なローブを着た、自分と同じくらい少女の姿が座っていた。


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