ショート・カット・ロック

櫛木 亮

第1話 朝くらいはお静かに

 パンデミックか?

 世界はもう終わりなのか?


 新聞を片手に珈琲を飲む。

 眉間にシワ。しわしわのシワ。

 あと残っちゃうぞ〜


 休日はなるべく合わせて、どちらともなく気ままに起きてきて珈琲をいれる。それが僕らのおやすみのスタート。


「ねえーえ! りょうちゃー! これ見いーて!」


 着替えもせず、寝癖だらけでだらしない。

 この大柄のいつまでも子供のようなヤツが僕のパートナーの「あーちゃん」だ。



 そして、僕はこの物語の進行役。&作者の「亮」だ。

 うん。それはさておき。


 新型肺炎ウイルスで世間は違う意味でパンデミック。一番はじめに薬局とドラッグストアからマスクが消えた。世は大花粉時代……重度の花粉症の僕にとっては申し訳ないがそっちの方が深刻なのだ。


 そして、トイレットペーパーが売っていない。デマのおかげで、うちの家も半ロールしかないという状況でとうとう悲鳴が上がったのだ。


「りょうちゃん…… 私、死んじゃう」

「ん?」

「硬い紙でおしりを拭いたら死んじゃう」

「なんだよ。大袈裟だな。答えは簡単だ。ウォシュレット使えばいい」

「それが一番いいのは知ってるわよ! でもでも! トイレットペーパーがないと困るじゃない!」

「売ってないもんに騒ぐな。在庫の棚にもないって店員さんも嘆いてたよ。 あーちゃんはどうしたいのさ…… いっその事お風呂で洗うとか?」

「……りょうちゃんもういい。黙ってて」

「……うん」

 僕は言われたとおりに黙って珈琲を飲みながらスマホの天気予報をチェックしようとスマホに手を伸ばす。真向かいにフグのように膨らんだ頬が見える。いい大人が頬を膨らませて拗ねんな。それに、おまえさんは顔がうるさい。


「……おなかすいたもん」

「おまえが先に喋るんかい!」

「パンとベーコンとチーズ半熟のオムレツが食べたい」

「作ればいいじゃん」

「作って……」

 僕は黙って寝室に一度戻り、部屋着に着替えて棚からトースターをまず取り出す。オムレツは牛乳ととけるチーズを入れてかきまぜる。フライパンを中火にかけ、バターを溶かしておく。うちはオムレツに乾燥バジルとブラックペッパーをいれる。これを入れるか入れないかで味が違うとあーちゃんから怒涛のクレームがくる。分かったから。


 野菜室からレタスの葉を二枚出して水で洗って適当な大きさを手でちぎって皿に置いておく。とけたバターにさっきの卵をフライパンに入れたら箸でゆっくりとまぜる。端がふんわりとかたまりだしたらくるくると一気にまぜて端に寄せていく。多少は形が不格好になっても気にしない気にしない。味気ない形が綺麗なだけのオムレツより味が大事だと亡くなった父が教えてくれた。僕はそれを大事に忘れないように胸にしまっている。


 そうこう言ってる間にオムレツが完成。オムレツを焼いたあとのフライパンでベーコンを焼く。ベーコンがぱちぱちと音を鳴らす。表面がカリッとしたくらいが美味しいのだよ。ベーコンもお皿に乗せてテーブルに運ぶ。その頃にはパンが焼き上がり、機嫌を損ねたあーちゃんがにこにこの笑顔になっていた。



 こいつは腹が減ると機嫌が悪くなりやすい。


 知ってた。本当に単純だ。

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