第30話 ベリンジャー商会とフラン
「すごいな、周りの建物はどこも二階建てなのに、この建物だけ三階建てだな」
セリア、シトラスと一通り屋台をめぐり、ルッツ君へのお土産も準備した俺達はベリンジャー商会の建物へとやってきた。
「テイル様、お腹空いた」
「シトラスちゃん、あんなに食べたじゃない……」
フリッツさんから精一杯のおもてなしをするから程々に、と言われていたのに、シトラスは本当によく食べるな。スライムは大食漢なのかもしれない。今後食費について気をつけないといけないな。人型の時は排泄とかどうしてるんだろう。見た目が人っぽくなってるだけで、内部構造はスライムなのだろうか?
「すみません、フリッツさんとお約束してるテイルというものです」
俺は商館の入口にいる見張りの人へ声をかけた。護衛できるくらいの力はありそうだけど、どれくらい強いのだろうか。
「テイル様ですね。お待ちしておりました。中の者がご案内します」
そうして扉を内開きに開け――
「きゃ!?」
メイドさんが挟まれた。
◇
「あぁ、ペトラさん。大丈夫ですか?」
「すみません、たまたまの偶然で」
たまたまの偶然、それは二重になっていないだろうか。なるほど、このペトラさんというメイド、ちょっとドジな方らしい。髪と瞳の色がアクアマリンだ。この
「さて、ペトラさん。ドアに挟まった所申し訳ないのですが、お客様を
「かしこまりました。きゃっ」
あぁ、今度は床で滑ったみたいだ。大丈夫だろうか?
「申し訳ございません、こちらへどうぞ」
俺らはペトラさんに案内され、廊下を1分ほど歩いて
「すぐに旦那様がいらっしゃいますので、どうぞくつろいでお待ちください」
給仕の人たちに椅子をひいてもらい、着席する。と同時にウェルカムドリンクだろうか、フルートグラスに黄色い液体、そして縁にミモザが飾られていた。
「テイル、これ美味しいね」
セリアの口には合うようだ。俺も一口飲む。あぁ、これはそのまま、シャンパーニュとオレンジで割ったカクテル『シャンパーニュ・ア・ロランジュ』、一般的にミモザと呼ばれるカクテルだ。
「花美味しい」
なんとシトラスがミモザの花を食べている。食用菊と違って食べられないと思うのだが。あぁ、メイドさん方も複雑な表情で微笑んでる。すみません、なんでも食べるスライムなんです。
「グラスは食べちゃダメだぞ」
「テイル様、私はそこまで物を知らないスライムではない」
確かにシトラスは意外にも人間社会に適応している。不思議だ。モンスター生活の方が長かっただろうに。
「あぁ、いやぁ、お待たせして申し訳ない。えぇ、そのまま、座ったままで結構です」
驚いた。服を整えてきたフリッツさんは、どこからどう見てもまるで一貴族みたいな装いだった。ルッツ君は着慣れてないのか、どこかソワソワしている。
「いえ、ウェルカムドリンクを美味しく頂いていたとこでした」
「それは良かった。今日は何もコース料理ではなく、大皿料理を順番に出していきますので、歓談しながら気軽に食事と行きましょう。落ち着いて話したいことも多々ありますし」
すぐに前菜が持ち込まれる。バゲットにクリームチーズ、スモークサーモンとそこへディルとオリーブを散らしたフィンガーフードだ。キャビアを散らしたものもある。
「さて、早速ですが、ご友人からの紹介状について話したく」
「えぇ、ギルド受付嬢のフランからのですよね」
食べながらの会話というのは中々難しい。シトラスは話すことも無さそうなのでひたすら色々なものをつまんでいる。スライムだから腕伸ばすの楽そうだな。使用人の人たちは驚くんじゃないかと思ったけど、意外に落ち着いている。スライムがいるということを聞いていたのかもしれない。
「はい。フラン嬢の身分に関しまして、テイル殿、セリア殿はご存知かな?」
「「……ギルド受付嬢では?」」
二人して返答は一緒だ。受付嬢? いや、副ギルド長とか?
「あぁ、やはりご存知無かったのですな。フラン嬢は、アンデルス男爵のご息女です」
「「ええ!?」
今日はよくハモる日だ。
「あまり知られてないことですからな。フラン嬢の父上、エトムント・ツー・アンデルス男爵とは旧知の中でして、当商会とも長い間取引があります。また、アンデルス男爵家からの口添えもあったおかげで、祖父の代からベリンジャー家は、貴族では無いのですが、準貴族として準男爵位を叙せられました」
なんと、ベリンジャー家も準男爵だったのか。
「まぁ、そのようなわけでして、まず先にお話していたマルニエール学園への推薦ですが、こちらはアンデルス男爵家から推薦されるかと思いますよ。紹介状とは別に、フラン嬢が必要ならば男爵家として助力すると手紙が入っておりましたから」
「いやぁ、本当に全く知りませんでした」
「フランさんが男爵令嬢だったなんて。それにしても、どうして公にしていないのでしょう?」
フリッツさんはワインを飲みながら少し考え込む様子を見せた。
「……それに関しては、私も詳しくは知らないんですよ。あぁ、それと、もしシトラスさんも学園へ入るというなら、もちろんベリンジャー家として推薦状を書きましょう」
「え、スライムでも入れるんですか?」
「特に制限は無いのですよ。正確に言うとダメとはどこにも書かれていないので、大丈夫でしょう」
「学園、食べたい」
「シトラスも学園に行きたいそうなので詳細が決まりましたら、その件はまた、お願い致します」
少しずつシトラスの言葉を翻訳できるようになってきたかもしれない。
「えぇ。それと、こっちが本題でしたか。アンデルス男爵家より紹介状ということで、より一層ベリンジャー商会として助力させていただきます。馬車の手配から、そうですね、王都では礼装も入り用でしょう。学園に入ったら寮生活ですが、それまで我が商会と取引がある宿を商会させていただきます」
「そんな、何から何まで」
「テイルさん、それだけあなたが買われているということですよ。アンデルス男爵家からも、ベリンジャー家からも」
それから賑やかな食事が続き、シトラスがほろ酔いし始めた頃だった。
「失礼します、旦那さま。バジリオ副頭取が帰還いたしました」
「なんと!」
「一旦、衣服を整えてから顔を出すそうです」
盗賊との戦闘で行方知らずになっていたベリンジャー商会副頭のバジリオさんが戻ってきたらしい。
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誤字脱字や表記ゆれ、スペース、カッコ書きなどを、各話さかのぼって少しずつ修正しています。
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