第14話 この世界で生きる目的
あまり街の人々と会話して無いが、当初抱いていたNPC感というものはだいぶ抜けてきた。当初はセリアと会話するのも、なんだか怖いものがあった。トリスタのAIはよくできていたので、NPCも多少のアドリブ、というかセリフ辞書集から一定の単語を抜いて会話を返していた。なのでセリアと多少の会話をしてもNPCだと思っていたのだが…不思議と今はそんな気持ちが無くなっている。
『はじまりの村』でセリアに会うまで、俺はこのゲームで何をしようか迷っていたんだ。もう一度レベルを上げなおしてゲームを楽しむか、異世界スローライフみたいなことをするか。
VRMMORPGなので普通に地球にあるものはある。だから例えばカカオの実を見つけてチョコレート菓子を作って金儲けとか、化粧品発明するとか、現代の戦争戦術も組み合わせて内政チート人生とか、およそどこぞのネット小説みたいな異世界人生は楽しめそうにない。あ、まぁ無くはないんだが、トリスタにそういう要素は。
「テイル、『珊瑚の街』って綺麗だね」
「あぁ。この世界でも屈指の美しさがある街だと思うよ」
何気ないセリアの一言が安心する。自分は生きている、この娘も生きている。この
1つはセリアと幸せな日々を送る。結婚もする。恥ずかしながら、初めて会った日に心奪われてしまった。ゲームのNPCとイチャイチャしようとか、そういうのではなくて、目の前でシナリオのセリフをそのまま話してるかのような(あの時はそう思った)セリアを見て、ドキッとした。
もう1つはレベルを急いで200まで上げていく。レベル150くらいまで上級者と言っているが、あれは厳密に言うとトリスタ初期レベルキャップだ。ゲームでも異世界転生小説でもよくある、レベルインフレがトリスタでは起きてる。まぁ長いこと運営されてたし、そうなるわな。実際レベルキャップがどこなのか知らない。現役時代は400とか見かけたが。
「そっかぁ、トリスタで屈指の美しさなんだぁ」
俺自身、現役時代のレベルがいくつだったか思い出せないのだ。トリスタのバグとか街やアイテム、モンスターの情報はなんとなく覚えてる。だけど、誰かに調整・管理されているというか、適当なタイミングで小出しにしか思い出せな…ん!?
「トリスタ?今トリスタって言ったか?」
「そうだよ?トリスタでしょ?この世界・星の名前」
なんと、この異世界はトリスタという名前だったのか。というかよく考えたら、転生してすぐ街で聞き込みすべきだったな。異世界転生物として初歩的なミスを俺はしていたのか。いや、そう思えないようになっていたのか…。
「ずっと村で育ってきたから、広い世界を見てみたいな〜。大陸の外ってどうなってるんだろう。世界の端ってどうなってるのかな?本当に空に浮かぶ島とか、底の見えない大穴とかあるのかな」
「そうだな、一緒に世界を回ってみようか」
「…うん。とりあえず、まずはこの街散策しようね?」
もう1つ、この世界で生きる目的ができた。世界を知る。
『珊瑚の街』は土壁でできた街だ。地球でいうところの中東地域のような感じ。とは言っても町並みの色は鮮やかで、イタリアのアマルフィやモロッコのような雰囲気を足した感じ。家屋の壁には所々珊瑚の欠片や貝殻が埋まってたりする。どういう原理なのか知らないが、シャボン玉のようなものが時折屋根や飾りからプカプカと浮かぶ。こういう所は、
「アクセサリー見ていきたいな」
セリアに手を引っ張られてアクセサリーショップに入っていく。各種効果が付与されたアイテムとしてだけではなく、ただのアクセサリーだ。やっぱ女の子はこういうのが好きなのだろうか。糸やビーズ、金属の鎖なんかも売っていて、自分でハンドメイドできるようになっている。
そう言えばゲームでそういう楽しみ方をしてるプレイヤーもいたな。器用さや合成スキルが上がるから、俺も一時期ハンドメイドをしまくっていた。ゲームで作ったアクセサリーを、現実世界で届けてくれるキャンペーンとかもあって盛り上がったものだ。
「こっちとこっち、どっちがいい??」
セリアは青いガラス片が散らばったブレスレットと、赤いガラス片が散らばったブレスレットを両手に持っていた。セリアのイメージカラーは青だが、こういう時どうすればいいんだっけ。確か女の子は選ぶ前から決まってるだとか、目線の先が選んでほしいやつだとか、言われまくってたしネット小説の定型文みたいなもんだったな。
「両方、似合ってるよ」
そう返事を返すと彼女の両手からブレスレットをすくい、レジへ出した。
「この2つ、ください」
「あらあら、そう。2つで5,000Gね。」
レジのおばちゃんは何を思ったのか、俺とセリアを交互にニコニコ見つめた。
「あ、あの、ティル…」
「じゃぁ、そろそろギルドに行こうか。ここも宿はギルドにあるんだ」
2度目の人生、異世界で楽しい人生を、送りたいな。
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