第13話 ビーチコーミング

「えぇ!レ、レベル50と52ですか!?」


 案の定、ギルド受付嬢のフランさんがご乱心だ。


「んーまぁ、色々とコツがありまして。あとこれ、常時依頼クエストの『無念の結晶』と『いぶし銀の欠片』です」


「え、待って下さい。『無念の結晶』…あのレベルでダマシウチスライムと戦って、『いぶし銀の欠片』…ニゲアシスライムとも戦ったんですか!?」


 もはやフランさんだけではなく、ギルドにいる人みんながコチラを見ているようだ。


「えぇ、正確にはレベル上る前にニゲアシスライムを倒しまくって、上がってからダマシウチスライムですが」


「や、どっちも大差ないですよ。あーもう分かりました。レベル条件だけで言えば十分なので、今からランクC冒険者にしますね。あとまぁ、適当にクエストでも消化してください。すぐランクBくらいにはなると思いますよ」


「いや、もうここ用ないんで次の街行きますね」


「え…ど、どこへ行くんですか!?」


「珊瑚の街で素潜りの予定」


「珊瑚の街で…素潜り?潜水スキルは?」


「まぁどうにかなるよ」


「あ、ぇえ?うぇぇ…??」


 混乱しつつも、どこか寂しげな目をするフランさんを置いて、俺とセリアはギルドを後にした。




「ねぇテイル、狩りの成果そんなにすごいことだったの?」


「んーセリア、お前たぶん俺と1日いて既に感覚が麻痺してるみたいだが、昨日のスライムは2匹とも、レベル15未満で挑むような相手ではないし、あのドロップアイテム量、それにレベルが上がる速度もおかしいほうだぞ。たぶん受付嬢のフランさんは、レベル15になるまで2週間はかかると思ってた」


「そういうもんなんだ〜」


 ど田舎にいたせいか、こっちはこっちで普通が分からないらしい。



「ネクスト村」から「珊瑚の街」に行くまでの間は壁抜けショートカットができない。まぁ4kmくらいだし、冒険者の足で歩いて1時間くらいだろう。それに途中のフィールド、砂浜エリアは景色も良い。ビーチコーミングでも楽しみながらいくのも悪くないかもしれない。


「『珊瑚の街』はどんなところなんですか?さっき潜水、とか言ってましたけど」


「なんだ、セリアは『珊瑚の街』を知らないのか?まぁ王都に行く道とは違うし、通らないか。あそこは適正レベルが20〜40程度のダンジョンがあるんだが、一部はレベル70が適正なんだ。そのダンジョンに行くには途中で潜水スキルを取得している必要がある」


「潜水スキル?」


「そう。セリアがどれだけ水に潜れるのか知らないが、10分以上は潜れないといけない。普通は無理だな。そこでだいたいの場合『珊瑚の街』にあるダンジョンでレベル上げをするか、別の街にあるダンジョンでレベル上げをして、潜水スキルを取得する」


 あぁ、潮の香りがする。砂浜エリアにきたな。珊瑚の欠片でも拾っておこう。


「あ、その珊瑚の欠片、綺麗だね」


「あぁ、これは後でアイテム合成する時に役立つ。あとは、そうだな。冒険者用のアイテム以外ににもアクセサリーにできるから、歩きながら拾っておくといいぞ」


 セリアは色々な珊瑚の欠片やら貝殻、石を拾いはじめた。俺にはどれも同じ用に見えるが、女の子はこういうのが好きなのだろうか。んーこのペースだと街につくまで1時間半以上かかるな。


「そういえばフランさんは潜水に関して驚いてましたね」


「俺が今のレベルで潜水すると言ったからだろう。潜水スキルが使えるのはレベル70からなんだ」


「それじゃぁ、レベル上げするんですか?」


「いや、あのダンジョンへ行くための潜水はバ…うっ…えっと、まぁあれだ、女神様が別の方法をだな、んーと、大賢者様と編み出した!」


 ついついバグの話をしそうになるな。やっぱりバグの話は他人にできないみたいだ。この謎の高位の存在による圧力、なんなんだろうか。いい加減気になってきたが、知ったらあれだ、ネット小説ド定番の創造神とか降臨してしまう。ちょっとそれは面倒そうだ。


「女神様…すごいですね。それにしてもテイルは多くの神託を授かっているんですね」


 セリアはだいたい女神様と大賢者様の話で誤魔化せそうだな。女神よ嘘を許せ。文句があるなら創造神?がいるのか知らんが、そのへんに言っておいてくれ。


「海の中は綺麗だぞ。行き過ぎるとちょっと怖いところもあるが、綺麗な世界だ」


『珊瑚の街 深海に至る海の森』 ―― あそこは Trackトラック・ Starスター・ Onlineオンライン屈指の美しいフィールドだ。VR化される前から人気だったらしいが、VR化後は更に人気が出た。まさにバーチャルのダイビングエリアだろう。BGMも神曲だった。あまりにも美しすぎて危険エリアまで行き、そのままキル・ペナルティをくらったプレイヤーが後をたたなかったくらいだ。


「そう言えば私、水着持ってないよ」


 水着、水着あったかな。あぁ、一応アイテムボックスにあったな…謎に性能がいいし、これでいいか。


「大丈夫、水着ならちょうどいいのを持ってるよ」


 セリア、この辺の珊瑚の欠片、全部かき集めたんじゃないかってくらい持ってるな。アイテムボックスにはオープンボックスとプライベートボックスというのがあって、パーティーを組むと特に隠さないかぎり、相手のアイテムボックスのうち、オープンボックスの中を見ることができる。


「そっか、ならすぐ問題ないね」


「なぜだか『珊瑚の街』は丁度いい水着がないからな」


『珊瑚の街』で売ってる水着はどちらかというとおしゃれアイテムが多い。こうやって砂浜を散歩するだとか、観光程度ならいいのだが、ダンジョンに進んでいくのには性能面で不備がある。水中エリアでは、上級者用アイテムの一部から上以外は、全体ステータスがガクンと下がってしまうのだ。


 大抵の場合、地道にダンジョンを攻略して水中用装備を入手するか、こうやってビーチコーミングでアイテム合成用の材料を探すことになる。




「ところで、セリア、そろそろ街につくぞ」



 せっかくたくさん珊瑚の欠片を拾ったんだ。時間を見てアクセサリーでもプレゼントしよう。

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