第5話 チュートリアル完走
なぜ俺が『はじまりの精霊の冠』を手に入れているのか。『はじまりの神殿』で誕生した時はアイテムボックスに無かった。このアイテムはこのチュートリアルで村長の娘に渡すと消えるので、実際に20分程度しか保持していない。実は『はじまりの草原なんて無かったバグ』を行ったタイミングで既にこのアイテムを所持していることになる。所持していても、一度村長の娘に『はじまりのおつかい』を依頼されて、一度家を出てまた入らないと渡すことができないのだ。
「あの、お名前を伺ってもよろしいですか?」
おつかい依頼前に聞けよ。まぁでもきっとあれだな。初期シナリオライターの『はじまり』先生がまたミスったんだろう。そしてあの人のことだ、面倒でそのままにしたんだろう。どうせチュートリアルだし。これもどっかで聞いたことあるな。
「テイルです。明日の精霊祭、楽しみにしています。お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
今思い出したけど、聞かないで知ってるとちょっと気持ちわるいしな。
「セリアです。セリア・ハジマリ」
おおう、まじか。『はじまりの村』だから性がハジマリなのか?ハジマリさんか。
「『はじまりの職人小屋』の『職人のオッサン』は気難しい方でしたでしょう?」
というか、村長の家出てすぐ入っただけの短時間で『はじまりの精霊の冠』を持ってきたことは突っ込まないんだな。『はじまりの草原なんて無かったバグ』を使ったので『職人のオッサン』には会ってないし、小道と小屋のマップすら目にしてない。あのオッサンは謎掛けをしてくるんだけど、それが三十問くらいあって、そのせいでこのチュートリアルが一時間以上かかることになってる。
「えぇ、謎掛けで本当に苦労しました」
いまいちゲームっぽさと今俺が生きている現実感があって、正直どれくらいゲームっぽく対応してどれくらい人間ぽく対応すればいいのか分からないが、とりあえずバグ技とフラグ関係以外は自然体でいこうと思う。今のところ門番やセリアさんはNPCっぽさがあるけど。
「『門番のオッサン』には意地悪されなかった? あの人、村に来る人みんなを意地悪するのよ。そろそろクビにしようかしら……」
強いな村長の娘。門番のオッサンはこのお使いイベントで村にもう一度入る時、一回顔を見てる癖に「貴様!何者だ!」とありふれたセリフを吐いて、通せんぼする。強行突破するとそのままバトルに入るんだけど、これは強制負けイベントでそのまま村の自警団に捕まって事情聴取。そうこうしてる間に噂を聞きつけた村長の娘がやってきて釈放される。ちなみに倒しても自警団に捕まって事情聴取だ。倒せない負けイベントのはずなんだが、倒したやつがいる。そういうもんだ。
そう、あの1万Gはこのイベントをスキップするための賄賂なのだ。一応バグではなくて、そういう隠し選択肢としてある。「はじまりの草原なんて無かったバグ」で転移した場合、『門番のオッサン』の行動はお使いから帰ってきた時と同じパターンになるので、金を渡せばいい。このスキップを忘れるとロスタイムとなり、RTAのタイムに支障が出る。
しかしなんだかな、お使いイベントを発生させるフラグと『門番のオッサン』イベントのフラグ、アイテムの入手タイミング。実にゲーム設計がバラバラだな。やっぱガバガバゲームだ。
「ぜひクビにしてください。それでは私はこれで……」
「あ、お父さんに会っ」
――バタン
村長に要はないのでとっとと退出する。村長に会うと『はじまりの装備』がもらえる。しかし『はじまりのチュートリアル』は『はじまりの精霊の冠』を渡した時点でフラグが立ってチュートリアル完走となる。装備をもらう必要は無いのだ。あれは序盤に持ってると楽なアイテムだけど、俺は既に上級者用装備が一式そろってる。
もちろん、RTA走者は『はじまりの装備』無しで先に進むテクニックやバグを駆使するので、村長に会う機会は当分無い。
会うとしたら…村長の娘をもらう時からだ。
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