ハゲハゲツルピカフェスティバル~髪が無くたっていいじゃNight‼~
おぎおぎそ
ハゲハゲツルピカフェスティバル~髪が無くたっていいじゃNight‼~
渋谷がハゲで染まっている。
普段は若者でごった返す原宿だが、今宵の最大勢力はハゲだった。老いも若きも、頭髪の寂しい者は誰でも皆、この祭を待ち望み、心の底から楽しむからだ。
そう。日本最大級のハゲの祭典、ハゲハゲツルピカフェスティバルを。
「ウィ~ア~?」
「ハゲ―‼」
大通りに目を向ければ、そこかしこで、ハゲたちが謎のコール&レスポンスを繰り広げているのを見ることができる。片手には缶ビール、もう片方の手には各々が普段愛用しているカツラを手に踊り狂っている様はさながらディスコのようだ。チアリーダーのポンポンのように跳ねるカツラがいいアクセントになっている。
フェス、と名がついているものの、このハゲハゲツルピカフェスティバル(通称「ツルフェス」)は、いわゆる音楽フェスとはまた毛色の異なるものであり、どちらかというと、まさにこの渋谷で例年行われているハロウィンの仮装行列に近いものである。そう、若者たちが街を練り歩き、大声を上げて酒を飲み、軽トラをおもちゃにし、コスプレを楽しむ例のイベントだ。まあ、ここにいるハゲたちは逆に普段の生活の方がカツラっていう仮装をしているわけだが。
このツルフェスの主な目的は、「ハゲたちの交流」である。普段自分を偽って過ごし、現代の忍者とも称されるハゲたちは、互いにその存在を認識できないことも多く(稀に、モロにバレている者や少しズレている者、あるいは逆に自ら世間に公表している者もいるが)同じ悩みを持つ者同士であるにもかかわらずその悩みを共有できずにいた。このフェスが開かれるようになってからは、年に一度の自由を求めて全国各地からハゲが集まるようになり、ハゲどうしの結びつきはひと昔前では考えられないほど、強固なものになっている。相変わらず、毛根と頭皮の結びつきは弱いようではあるが。
「はい皆さん、車道を塞がないでください~!」
大規模なイベントであるため、当然のように警察も出動している。ハゲ集団の平均年齢は結構高めなため、基本的にマナーはそこまで悪くないが。さきのDJポリスの呼びかけに対しても、ハゲたちは素直に従っている。呼びかけた警察官が彼らの同族(バーコード種)であったのも、ハゲたちが素直に従った一因ではあるだろうが。
こうして、どんちゃん騒ぎのなか、ツルフェスで賑わう渋谷は大きなトラブルを抱えることなく、深夜を迎えようとしていた。
出動しているパトカーのパトランプが夜の渋谷を照らし、その赤い光をハゲたちが反射することで、さながらミラーボールのようにハゲが町中をペカペカ照らし始めた頃、ハチ公像付近で、一部のハゲがざわつきはじめた。警察が止めに入るほどではないのだが、そのざわつき方は、それまでのバカ騒ぎとは明らかに一線を画しており、周囲のハゲたちも気になったのであろう、ざわつきの輪はどんどんと広がっていった。
「おい、あそこの人、カツラなくしたらしいぞ……」
「まじかよ、かわいそうに。こんなに人であふれてたら見つからないぞ……」
どうやらこの騒ぎは一人のハゲがヅラを紛失したことに端を発しているらしい。現に、騒ぎの輪の中心に目を向けると、そこには大の大人がワンワンと大声を上げて泣いているのが見て取れた。
「ないんです! ないんです‼ 私の、私のカツラが……‼ ちょっと目を離した隙に……ああ、私はなんて馬鹿なんだ! ずっと、ずっと一緒に生きてきたっていうのに、少しの不注意でこんな取り返しのつかないことになるなんて……‼」
嗚呼、なんと不憫なことであろうか。
カツラとハゲは一心同体、常に行動を共にする存在である。嬉しい時も悲しい時も、雨の日も雪の日も一緒に乗り越えて、時に飛ばされたりズレたりして笑われることもあって、つい喧嘩しちゃったりして、「もうお前のことなんか知らない‼」なんて心にもないことを言って出て行っちゃって、でもやっぱりあいつの温もりが忘れられなくて、もう一度側にいて欲しくて、海辺の公園に呼び出して、「ごめん、もう一回俺にチャンスをくれないか」なんて言って仲直りのキスをするようなそういった関係なのだ。家族よりも、家族なのだ。
野次馬のハゲたちも、各々自分のヅラとの思い出を辿って彼を哀れに思ったのだろう。道路に溢れんばかりの見物人たちは、いつの間にかカツラの大捜索隊になっていた。
「おい、おっさん! どの辺で落としたんだ?」
「それが、あ、あの酔っぱらっていてよく覚えていなくて……ただ駅からはそんなに離れていないと思います!」
「おっしわかった! 皆、くまなく探せ! ウィ~ア~?」
「ハゲー‼」
大人数を相手に話すという状況に慣れているのだろう。音頭をとるのは今どき珍しい陽キャパリピハゲだ。もっとも、ハゲている時点でここにいる皆等しく「陽」キャではあるのだが。
あるものは大声をあげ、あるものはスマホのライトを頼りに、またあるものはSNSを駆使し、懸命の大捜索が行われた。ついには交通整理で出動していた同族の警官(落ち武者種)も助太刀し、懸命の捜索が続けられた。
――かれこれ一時間は経った頃だろうか。諦めムードが蔓延し、カツラを失くした張本人が、皆さんに申し訳ない、とまたワンワン泣きだしたころ、突如、喜びの報せが届けられた。
「あったぞー‼」
渋谷が歓声で染まった。
発見されたヅラは直ちに所有者の元に届けられる。バケツリレーもといカツラリレーの要領で、見つかったヅラは瞬時に人混みを掻き分けて行った。
「ごめんよ、ごめんよ! 俺が気を抜いたばっかりに! もう、もう二度と君を一人にはしないよ‼」
喜びの涙を流しつつ、カツラを抱きしめるハゲ。その姿はまるで、現代に蘇ったハチ公と飼い主のようであり、周囲のハゲたちも涙を禁じえないようであった。なんと美しい光景であろうか。
発見者の談によると、カツラはモヤイ像の口元に置かれていたという。暗がりのせいと、モヤイ像と髭のダンディな親和性が発見を遅らせたのだろう。何はともあれ、無事発見されたことにハゲ達は沸き立った。
ツルフェス史上最も感動的なこの一件はその後長い間、多くのハゲ達によって語り継がれていくこととなった。
ある人が言った。
ハゲハゲツルピカフェスティバルの日東京の夜景はいっそう光り輝く、と。
それは単にハゲたちの毛髪の不足による間接照明効果にだけよるものではないのだろう。
隣人を愛し、支え合い、共に傷をなめ合い、喜びを分かち合う。
そんなハゲたちの心の美しさの結晶が、街をより光り輝かせるのである。
我々もそれを見習おうではないか。それに続こうではないか。
合言葉は簡単だ。
ウィーアー、ハゲ。
ハゲハゲツルピカフェスティバル~髪が無くたっていいじゃNight‼~ おぎおぎそ @ogi-ogiso
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