僕の死因は君が好い
不朽林檎
プロローグ
二人きり、教室に取り残されて。
「寿命は十八年と三ヶ月、死因は自殺です」
机上の端末が無機質な音声を発した。
「やっぱり聞き間違いじゃないのかぁ」
僕の机に突っ伏したままで、佐伯さんが呟く。
「納得した?」
「…」
僕は椅子の背もたれへ仰け反り、カッターシャツのボタンをさらに一つ外して、ぱたぱた鳴らす。
「それにしても、暑いね…」
「あーもう。早く来てよぅ、せんせー」
終業式の日、いつもより早い放課に、待ちに待った夏休みを迎えた生徒たちは意気揚々と教室を後にした。
そして僕らだけが、委員会の仕事とやらで残されているのだ。掃除道具の点検だとか。なにも、今やるべき事じゃないと思うけど、拒否権が無いんだから仕方がない。
蝉の大合唱が、
「ねー、これ終わったらさ」
「うん」
「どっか涼みに行こー?」
「いいね」
「君の奢りで」
「よくないね」
彼女は起き上がり、長い髪をかき上げた。見てるだけでも暑そうだ。
「
「うん?」
「君は、卒業したらどうするの?」
「まだ決めてないよ」
「自殺の専門学校とか行くの?」
「どこの国にあるのさ」
「私はねー」
「訊いてないよ」
「君についてく」
あまりの気だるさに閉じていた目を、ゆっくりとひらく。人の善さそうな彼女の顔が、じっとこちらへ向けられている。
ため息を吐いた。
「やめときなよ」
「どうして?」
「こんなロクデナシについて来たって、なにもいい事無いよ」
「そんな言い方しちゃダメだよ」
「でも事実だ」
「むー」
「だから、君は別のところで、幸せになるんだ」
「やだ」
「なんで」
「私は、君の死神だから」
僕の視線から逃れるようにして、彼女は教室の入口をちらと見た。
「…せんせー、遅いね」
「だね…」
「ちょっと、様子見に行こうか」
「賛成」
応えて、僕は立ち上がる。同時に彼女も立ち上がって人差し指を僕に突きつけ、けたたましい蝉の声に負けじと、高らかに宣言する。
「夏休みは引っ張り回してやるんだから、覚悟しといてね!」
「はいはい」
「言ったからね?約束だよ!」
機械仕掛けじゃない神様が、もしどこかにいるのなら。
これは、たぶん僕にとってラストチャンスなんだろうと思う。
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